6AK6CSPPミニアンプ

少し前に作った6KT8CSPPミニアンプは、 CSPP(クロスシャントプッシュプル)アンプの良さを認識させてくれた記念すべき私のCSPPアンプ第一作ですが、ミニアンプとしては 思ったほどコンパクトに出来なかったので少々不完全燃焼でした。そこで本機はその部分を満たすため、”世界最小のCSPPアンプ!”を 目指して、どこまで小さくすることが出来るかということに挑戦しました。

回路図

ミニアンプは出来るだけシンプルな回路で、部品点数を少なくすることが成功への近道です。本機では、ラジオ技術誌に黒田徹氏が発表された CasComp応用回路に、カスコードFETを追加することでオペアンプの出力の最大振幅を小さくすることができ、 その結果オペアンプの電源電圧が低くて済むため、ヒーター用巻線を利用して電源回路を簡素化することができました。

本機製作に先立ってバラック実験を行い、回路、定数は予め決定しました。ミニアンプは混んだ回路実装になりがちで、実装してから定数を 変更するのは容易で無いことが多いので、バラック実験は大切です。バラック実験の結果はこちらで紹介しています。

簡素化が大事だと云いながらも電源回路に同じような電圧のマイナス電源が2種類ありますが、残念ながらこれは一つにまとめることは出来ません。 まとめてしまうと電源オフ時にスピーカーからバコ〜ンという大きなノイズが発生します。CasComp応用回路を使うときのコツなのですが、 電源オフ時にオペアンプの電源よりも真空管回路の電源が先に落ちるように設計すると、このノイズの発生を抑えることができます。

実装

どんなサイズのアンプでも同じだと思いますが、アンプの大きさに最大の影響を与えるのがトランス類であるということは疑いの無いところでしょう。 市販のトランス(特に電源トランス)はどうしても冗長なものになりがちですので、最小の大きさに追い込むため、ここ数作のミニアンプは全て トランスを自作しています。本機で使用したトランスは、電源トランス、出力トランスとも関東変圧器材工業というメーカーのオリジナルの UI−11というコアを使用しました。トランス類の詳細はこちらでご紹介しています。

今回初めてサブミニチュア管を採用してみました。本機はまず最初に出力管とトランスを決め、それらが載る最小のシャーシを市販品の中から選ぶ という順序で構想が進んでいきました。そして困ったのがドライブ段用の球です。MT双三極管ではシャーシ上に並ばないのです。それに 出力管よりもドライブ管の図体がでかいというのも非常に抵抗がありました。そこで浮かんだのがサブミニチュア管です。球の交換が非常に やりにくくなるので随分迷ったのですが、サブミニチュア管以外では半導体回路でのドライブしか実現の方法を思いつかなかったので結局採用に 踏み切りました。

シャーシは、富士シャーシのNo.28Rという130mm×80mm×H35mmの大きさのものを使いました。穴あけ加工後にブラスト加工、 アルマイト染色を施して、ウォールナット材の側板を取り付けてみました。塗装の下手な私は、弁当箱シャーシを使うときはアルマイト染色に どうしても頼ってしまいます。でもこの仕上げをご覧になったら、その気持ち判ってもらえるのではないかと思います。ちなみに、このところ アルマイト加工は大阪の山口アルマイトという業者に頼んでいますが、 今回はブラスト処理も合わせて2千円でやってもらえました。良心的な値段ではないかと思います。

 測定データ

以下に組み上げた実機の測定結果をグラフにしたものを列挙します。

無帰還状態と仕上がり状態の周波数特性の比較のグラフ(上図はLch、下図はRch)です。

本機も出力トランスはスペック上、少し小さめになっていますので、出力レベルをパラメーターにしてF特を測定しました。

1Wの出力においては40Hz以下の信号でコアが飽和していますが、出力を上げてガンガン聴いても特に問題は無いように思います。 少なくとも誰の耳にも明らかというレベルではありません。不思議な気がしますが、同じ事を PCL84ULPPミニアンプの時も感じました。 世の中には大型出力トランス信仰があり、主にコスト的な理由で小さなものが選択されるのが一般的かと思いますが、決してそういった選択基準だけでは 無いのではないかと考えさせられます。

それにしても本機は、数mWの出力の範囲であれば約2Hz〜570kHzで−3dBという広帯域なアンプに仕上がりました。 このインピーダンスの低い広帯域なトランスが作れるというCSPPの副産物的な利点は要チェックですよ!

右チャンネルの低域の歪率が悪いですが、これは出力段のDCバランスが取れていないためだと思われます。調整できるような回路にするか、 出力管を多めに購入して選別するかの対応をすれば解決できます。今更回路追加は難しいので、本機では迷わず後者ですが...まだ買ってません。

仕上がり状態の出力インピーダンスを注入法にて測定しました。ダンピングファクター(DF)に換算すると8Ω負荷でLchが15.3、 Rchが14.6となります。ON/OFF法ではLchが14.9、Rchが14.3でしたので、ほぼ同じ結果となりました。 出力インピーダンスの低さはCSPPの特徴のひとつです。普通に多極管を用いた場合とは雲泥の差がありますね。

小さなシャーシに無理矢理詰め込んでいるので、さすがに高域でのクロストークはあまり良くないですが、それでもこの対策 によってかなり改善することができました。

本機ではシャーシが非常に小さいため物量作戦を展開することが出来ず、容量の大きな平滑コンデンサを使えませんでしたので、電源周波数由来の ノイズが少々多めなのですが、クロストーク特性を測るとそのことがモロにバレてしまいますね。

 総括

PCL84ULPPミニアンプを作ったときに、これ以上小さいアンプを作るのは無理だろうな、と思ったのですが、さらに小さな、でも 大きなアンプに負けないようなアンプを作ることが出来ました。自分でもビックリしています。サブミニチュア管を使ったりして、メンテナンスのことを 考えると、あまり良い方法とは言えないかも知れませんが、小さく作るということに関しては可能性が大きく広がったように思います。 またトランスに関しても、もっと小さなコアは世の中に存在しますから、アイディア次第だと思います。自分で自分の限界を作ってしまうなんて事、 する必要はありませんよね。

このアンプは2009年8月に大阪・豊中で行われた手作りアンプ関西支部主催の試聴会を目指して製作し、参加者の皆様に音を聴いてもらいましたが 残念ながらあまり満足できるものではありませんでした。その後9月に在る方へ貸し出しをして、今日に至っており、私としてはアンプの音がどのような ものであるのか2009年11月現在、よく分からない状態なのですが、お貸しした方によるとそろそろエージングを終えて良い音を奏で始めていると いうことです。出力トランスが非常に小さいので、確かにローエンドの音は出ませんが、CSPPの特徴である定位の良さなど、やはり他のアンプとは ちょっと違う音のニュアンスを持っています。今年中に一次返却してもらって、来年正月の善本さんの OFF会へ持って行こうと考えています。 持ち運びが全く苦にならないサイズと重さですからね。

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