6BQ5 クロスシャントプッシュプルアンプ

叶谷電子より発売されましたCSPP(クロスシャントプッシュプル)専用出力トランス ASTR−20S(試作品)を使った 6BQ5アンプを、Tannoyistさん(兵庫県西宮市)が製作されましたのでご紹介します。

 新型出力トランス ASTR−20/20S

(注:製品版のASTR−20Sは下の写真右のようにプレスボード仕上げのトランスですが、本機に搭載されているものは ASTR−20Sの試作品のため、仕上げ材と金具が異なっています。また、写真はワニス処理前のものですので、ワニス処理後は色、質感が 若干変化します。)

ASTR−20/20Sは、昨年発売されました ASTR−12の弟分となる10〜20Wクラスのアンプ用の一次側バイファイラー巻きの出力トランスで、 マッキントッシュタイプのCSPPアンプを製作することができます。 以下に製品仕様を示します。

以下にASTR−20のシャーシへの取り付け部分の加工参考図を紹介します。

以下に実際に測定しました一次側インピーダンス特性を紹介します。

 回路図

CSPPアンプの難しさの一つに、通常のDEPP(ダブルエンデッドプッシュプル)と比べて出力段の励振電圧が非常に大きいことが挙げられます。 ASTR−12の製作例では、多極管を用いて2段構成としましたが、高gmの多極管は選択肢が少なく、また入手にも難がある場合が多いかと 思われます。 本機では、ラジオ技術誌に黒田徹氏が発表されたCasComp応用回路を用いて入手の容易な双三極管12AX7で設計されておられます。 CasComp応用回路は利得の調整が容易で、広帯域、低歪率が特徴であり、CSPPアンプの電圧増幅段に好適です。 入力回路が直結されていますので、オペアンプはJ−FET入力のものを使用します。 汎用のデュアル型であれば選択肢が多いので、 ソケットを使って実装すれば、オペアンプを交換して音質の違いを楽しむことが出来ます。

出力段は、6BQ5を自己バイアス回路でシンプルに仕上げられています。

電源回路には特殊な部品は使用せず、汎用トランスを用いて設計されています。 出力段を充分に駆動するため、初段には高い電源電圧が必要ですが、 倍電圧整流回路でスマートに対応されています。

留意が必要な部分はオペアンプ用の電源で、電源オフ時にこの電源が一番最後に落ちるようにしなければ、スピーカーから大きなノイズが 発生する可能性があります。 本機では対策として平滑用の電解コンデンサに10,000μFの大きな容量が使われています。

  測定データ

以下に実機の測定結果をグラフにしたものを列挙します。

無帰還状態と仕上がり状態の周波数特性の比較のグラフ(上図はLch、下図はRch)です。 オーバーオールNFBは約11.3dB掛かっていますが ASTR−12と同様に、高域が非常に素直に減衰しており、出力トランスの優秀さが伺えます。

続いて歪率特性です。本機は残留ノイズが非常に小さいため、1mWの時でも歪率波形がノイズに埋もれていません。 そのために小出力領域でも よく見掛けるノイズの影響を受けて歪率が直線的に落ちるカーブではありませんが、非常に低い歪率を記録しています。 最大出力は、ほぼ10W+10Wと 6BQ5プッシュプルとしては余裕の動作です。

出力インピーダンスを注入法にて測定しました。 オーバーオール無帰還でも1kHzのDF(ダンピングファクター)がLchで5.80、Rchで 5.87と高く、CSPPの特徴がよく出ています。 NFBを掛けた仕上がり状態では、Lchが22.88、Rchが23.23と真空管アンプとしては 非常に高いDFとなっています。

最後はクロストーク特性です。 一方のチャンネルに入力した信号をスイープさせて、もう片方のチャンネルの出力端子にどれだけ漏れ出てくるかを 測定しています。 なお、不使用チャンネルの入力端子は開放し、入力ボリュームを最小の状態にしています。 可聴帯域でほぼ100dB以下という、 とんでもない数値を叩きだしました。

残留ノイズは、Lchが80.31μV(10−300kHz)、20.98μV(IEC−A)、Rchが76.48μV(10−300kHz)、 19.86μV(IEC−A)と非常に優秀です。 CasComp応用回路のおかげで、高gm管等で悩まされることの多いフリッカノイズ等は 全くありませんでした。

 総括

先行して昨年秋より発売されているASTR−12とシリーズを構成する、ちょっと小さめの出力トランスASTR−20/20Sが 発売されました。 高級角型化粧ケース入りと安価なケース無しの2種類から選ぶことができ、本機の測定データにてお判りのように性能も ASTR−12譲りの素晴らしいものです。 6BQ5をはじめ、6V6、6AQ5、6CW5等、手頃な球との組合せが楽しめますので、 CSPPアンプが身近なものになりました。 CSPPアンプは出力が大きくなればなるほど設計が難しくなりますので、CSPP入門用として性能、 価格ともお勧めできる出力トランスです。

以上、ARITO@伊吹山麓でした。お付き合いどうも有難うございました。 このアンプに関するご意見、ご質問は  arito@maekawa.com (@を半角にしてください)までお願いします。

 資料編

以下にCSPPアンプ等について、参考になるページや、製作例のリンクをご紹介します。

本機と同じASTR−20の試作品を使用した内田さんの 16LU8A CSPPアンプのブログページ

ASTR−20の兄貴分、ASTR−12を使用した西河さんの6L6GC/6CA7 CSPPのブログページ

同じくASTR−12を使用した拙の 6LU8クロスシャントプッシュプルアンプ

CSPPのバリエーションであるCIRCLOTRONを紹介した拙の CIRCLOTRON実験ページ

拙の提供したパーツを落札された石田さんの 6MP17CIRCLOTRONアンプ

拙の初めてのCIRCLOTRONアンプ、 6C19PクロスシャントプッシュプルOTLアンプ

拙のCIRCLOTRONの2作目、 6L6CIRCLOTRONアンプ

トリファイラ巻き出力トランスで水平偏向管に対応した拙の 21A6クロスシャントプッシュプルアンプ