CIRCLOTRONバラック実験

マッキントッシュのMC−275に代表されるCSPP(クロスシャントプッシュプル)アンプには、いくつかのバリエーションがあります。 私がいくつか手掛けたCSPPは全て出力トランスの一次側巻線をバイファイラ巻きにしてプレートとカソードを結合させるマッキントッシュタイプの 負荷分割型と呼ばれるものです。負荷分割型は自分なりに大体理解できたと思いますので、他のCSPPも試してみたいと考えました。

CSPPのバリエーションといえばSEPP(シングルエンデッドプッシュプル)もその一つなのですが、これはそれだけで一つのカテゴリーとする 見方もありますし、なにより以前に作ったことがあるので、ここでは対象外としました。それ以外に、ほとんど認知されていないと思われる CSPPの仲間のひとつにCIRCLOTRONと呼ばれるものがあります。今回はそれを取り上げました。

マッキントッシュの負荷分割型を除けば、私が知る限りメーカー製のアンプとして販売されたCSPPとしてはCIRCLOTRONだけの ようです。有名?なのはエレクトロボイスのAシリーズですが、フィンランドのメーカーからも発売された実績があるようです。

CIRCLOTRONについては、国内よりも海外の方が知られており、CIRCLOTRONを紹介している Circlotron History Page等でかなり詳しく勉強することができます。残念ながら日本では 殆ど製作された例が無いようで、かつさんの作例が私が見つけた唯一のものです。

Circlotron History Pageより

上の回路がCIRCLOTRONの基本回路です。プッシュプルを構成する出力管双方のプレートは電源を介して互いのカソードに接続されて いますので、負荷はグランドを中点にするとプレートとカソードの両方からとっていることになります。トランスのセンタータップを中性点 (コモン)として電圧ドライブすれば負荷分割型と同じように50%のKNFになり、交流的に等価となります。違うのは電源がシリーズに入るか どうかという点のみということになります。出力段の電源はどちらもフローティング電源が必要となりますので、電源回路はシンプルであっても ステレオで少なくとも4つ、電圧増幅段の電源を別に用意するとさらにプラスして電源が必要となります。これが負荷分割型と比べて若干作り難い 印象を与えており、製作例が少ない原因かもしれません。

以下の回路でバラック実験を行いました。電源の数を最小限にするため、電圧増幅段の電源の取り方についてはエレクトロボイスのAシリーズの 回路を踏襲し、電圧増幅回路は、初段とドライブ段は直結ではありませんので変形版ですが、ムラード型と呼ばれる回路としました。CSPPでは 通常のDEPPと比較して、大変大きな励振電圧が必要ですので、ドライブ段の電源に高い電圧が必要となります。ここでは出力段からの ブートストラップ電源を利用してドライブ段での必要充分な振幅を確保しています。

下のグラフは、実験回路の周波数特性です。CIRCLOTRONは通常のDEPPと比較して、負荷インピーダンスが1/4程度と低くなりますので 高域まで伸びた出力トランスが作りやすく、比較的広帯域なアンプが製作可能です。今回は実験用にEI−57のオリエントコアを使ったレイヤー巻きで 出力トランスを設計、試作しました。ご覧の通り、好結果が出ています。

次は出力インピーダンスを測定したものです。出力段からブートストラップを掛けていますので、出力インピーダンスはブートストラップを掛けない 場合よりも高くなりますが、それでも8Ωの負荷に対して1kHzのダンピングファクター(DF)は無帰還で3.29、NFBを10.5dB掛けて 14.50となりました。通常の多極管のプッシュプルではこうはいきませんから、CSPPの恩恵が大きい部分です。

次は全高調波歪率特性です。最大出力としては目視クリップ点で5Wくらいでした。6MP17としてはまだ余裕がありますので、Ebbであと 20Vくらい上げてやればもう少し出せると思います。 ブートストラップを掛けているためか、バラック状態でノイズに弱いためか、全体的に歪率が 高めです。しかしながら歪率特性自体は素直で、周波数による大きな差もありませんので、実際のアンプに組んだ状態では良好な音質が期待できるのでは ないかと思います。

下の写真は、今回の実験バラックです。トランス類は実験用に巻いたものを使用しました。

CIRCLOTRONは全く初めてでしたが、この規模であればそれほど製作が大変なわけでもありませんし、素直な特性であることも確認できました ので実験の成果としては上々ではないかと思います。市販のトランスでCIRCLOTRONを、と考えると出力トランスも電源トランスも適当なものが 見つからないのが現状ですので、誰でも挑戦できるという状態ではありませんが、バイファイラ巻きのトランスが必要なマッキントッシュタイプの 負荷分割型と比べると、まだ何とかなりそうな気がします。

 CIRCLOTRONキーパーツについて

当初は私が以上の実験結果を元に、ステレオアンプに仕上げるつもりでトランス類を巻いたのですが、ある事情があって発散しているアンプ製作の 整理をしなくてはならなくなったため、手作りアンプの会の関東大会2010年夏のお寺大会におけるオークションに寄付することにしました。

オークションに寄付する部品は以下の通りです。

1.出力トランス

この出力トランスは、以下の仕様のもので、バラック実験に使用したものと同じです。上の写真右の角型化粧ケース(中古)に入れて出品します。

下のグラフは出品する出力トランスをJIS C 6435準拠の条件で測定したデータです。2つとも非常に良い特性、かつ揃っています。

2.電源トランス

ステレオアンプを作るために必要最低限のフローティング電源が作れる仕様のものです。実験回路と同じアンプを製作する場合は、このトランスだけで 製作が可能です。仕様は以下の通りです。

実験回路と同等の電源を作る場合は、下の回路を参考にしてください。実験に使った電源トランスと巻線仕様は同じのトランスですが、実際に出る 電圧は必ずしも同じとは限りませんので、バラック実験の測定データと一致する性能が出るかは保証できません。また、もし実験回路とは別の回路で 使われる場合は、二次側のS1、S3、S5、そしてS2、S4、S6をそれぞれ同じコイルに巻いて両足巻きにしていますので、この両者の消費電流が バランスするように使用して下さい。消費電流に偏りがあると、大きな漏洩磁束が発生しますのでご注意下さい。 他の人に使っていただくトランスであれば、どのように使っても大丈夫なように設計するのですが、もともとは自分で使用するつもりでしたので 少々気難しい設計となっています。ご理解頂けますようお願いします。

3.真空管

  6BN4 2本

  6J6 2本

  6MP17 4本

6MP17や6BN4はあまりポピュラーな球ではないように思いますので、実験回路と同じ回路で作ってみようと思われる人のために、真空管を ステレオアンプが出来るようにセットで提供します。

以上の3種の部品、11点をキーパーツセットとして、一括して出品します。

落札された方には実験回路にこだわらず、ご自分のオリジナリティを発揮して発展させていただいて大いに結構ですが、自分が巻いたトランスが どのような活用をされるのかについては大変興味がありますので、願わくば、そう遠くない将来にアンプとして仕上げていただいて、何らかのかたちで 発表していただける方に落札して頂けたらと思います。

なお、オークションに出品したトランスに関しては絶縁耐圧試験(AC1,000V、1分間)を行い、合格したものですが、一切の保証はいたしません。 万が一落札いただいた部品が原因で事故が生じたとしても責任は負いませんので、ご了承いただける方のみ入札下さい。 出品しました部品についてやCSPP回路に関するご質問等には、可能な限り対応しますので、手作りアンプの会の掲示板やメール等でお気軽に お尋ね下さい。

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