6DE7差動プッシュプルアンプ(改造編)

改造後、動作中のアンプ

かなり熱を持つアンプとなってしまった6DE7差動プッシュプルアンプですが、諸悪の根源は電源トランスのB電源用巻線の出力電圧が高すぎることです。そこで、電源トランスをLH−150(タンゴ)からFP655(WELCOMEオリジナル)へ変更して根治療を行いました。どうせメスを入れるならこの機会に、ということで、以下の改良を施すことにしました。

1.出力管の動作点を当初のものに変更する。

電源電圧が高すぎたために、出力管に印加する電圧を30Vほど高くしてバランスを取っていたのを、当初の動作点(200V、35mA)に戻すだけのことですが、これで理想出力としては4.9W期待できることになります。

2.出力段のDCバランスを調整する回路を追加する。

Rchの出力段のDCバランスがかなり狂っており、NFBを掛けない場合1kHzに対して10Hzで−1.4dBとかなりF特が落ちていました。また、低域の歪率もLchと比較して悪くなっています。これはDCバランスを取ることで改善できるはずです。

3.出力段の定電流源を、LM723CNを使用した高精度のものにグレードアップする。

出力段の定電流回路に物理特性の優れた回路を使用すると、音のエッジが鋭くなってくるという情報を得ましたので、この機会に変更して試してみようと思います。

4.初段のゲインを調整し、NFBをより深くすることにより諸特性の改善ができるかどうかを検討する。

実はあんまり深く検討せずにNF量を約5dBに決めてしまったので、高域のF特が100kHz(−3dB)を目標に、安定度を損なわない程度に変更してみようということです。ただし、今より入力感度が落ちると使いにくくなるので、ループゲインがあまり変わらない様に初段のゲインが大きくなるよう調整します。

電源トランスを並べて、比較してみました。右側がタンゴのLH−150で、左側がWELCOMEオリジナルのFP655です。右のトランスの方がコアの積厚が少し厚いのがおわかりになると思います。  

 回路図

アンプ部の回路図を以下の様に変更しました。

アンプ部の回路はほとんど変更なしで、2箇所だけです。初段の2SK40のソース抵抗を27Ωから10Ωに変更し、ほんのちょっと裸ゲインを上げています。NFB回路の定数は変更しませんでした。出力段のバランス調整回路を電源基板に設けましたので、出力段のグリッド抵抗の100kΩは120kΩに変更して電源基板に移りました。

電源部の回路図は以下の様に変更しました。

今回の変更点のほとんどは電源部です。

1.B電源の整流ダイオードにスナバ回路を追加しました。これで少し気になっていたパルス性のノイズを減らすことができました。

2.B電源の電圧調整用の抵抗(3w180Ω×4)を追放しました。シャーシ内に、この約3.5Wの熱源があったのですが、これをなくすことができました。

3.B電源のリップルフィルタの出力に付いていた100μFの電解コンデンサを省略しました。理由は、電源基板にDCバランスの調整回路とグレードアップ版の定電流源を載せるためにはスペースが必要だったからです。測定結果からお判りの通り、省略してもノイズに関して特に問題はありませんでした。

4.出力段のDCバランス調整回路を追加しました。

5.出力段の定電流源をLM723による回路に変更しました。回路図にピン番号が入れられませんでしたので、詳しくは下図を参照下さい。この定数で約50mA〜約100mAまで調整することが出来ます。

6.ヒューズを1.5AからT1.25Aへ変更しました。これはB電源の電圧が下がったので通常の電流値が小さくなったことと、電源on時のラッシュ電流が増えたことに対応してスローブロータイプに変更したものです。電源on時のラッシュ電流が増えたのは、電源トランスが変わったことと、B電源の電圧調整用の抵抗が無くなったためではないかと思います。

 

ちょっと電源部の回路の部品点数が多くて、製作するのが大変なように思われるかもしれませんが、全ての部品はひとつの基板に載っていますのでそれほどでもないと思います。参考図として電源基板のパターンをご紹介します。(注:最終版ではありません)もし、詳細が必要な方がおられましたらメールでお問い合わせ下さい。

 測定データ

改造前と改造後の比較を表にしてみました。

    改造前 改造後
最大出力 Lch(100Hz) 3.4W(グラフより) 4.50W(実測)
(8Ω、5%THD)    (1kHz) 3.7W(グラフより) 4.67W(実測)
     (10kHz) 3.4W(グラフより) 4.72W(実測)
  Rch(100Hz) 2.9W(グラフより) 4.33W(実測)
     (1kHz) 2.9W(グラフより) 4.47W(実測)
     (10kHz) 2.9W(グラフより) 4.43W(実測)
周波数特性 Lch(at10Hz) −0.16dB −0.08dB
(1V、8Ω、1kHz基準)    (−3dB) at 97.1kHz at 109.75kHz
  Rch(at10Hz) −0.39dB −0.10dB
     (−3dB) at 92.5kHz at 100.33kHz
最低雑音歪率 Lch(100Hz) 0.0526%(0.05W) 0.0341%(0.07W)
(8Ω)    (1kHz) 0.0529%(0.02W) 0.0321%(0.07W)
     (10kHz) 0.0607%(0.03W) 0.0334%(0.07W)
  Rch(100Hz) 0.116%(0.015W) 0.0393%(0.07W)
     (1kHz) 0.0700%(0.015W) 0.0341%(0.07W)
     (10kHz) 0.0703%(0.015W) 0.0349%(0.07W)
ダンピングファクタ Lch 4.26(1V → 1.235V) 5.00(1V → 1.200V)
(8Ω、1kHz、1V) Rch 4.10(1V → 1.244V) 4.69(1V → 1.213V)
仕上り利得 Lch 16.10dB(NFB=5.26dB) 15.48dB(NFB=7.31dB)
  Rch 15.76dB(NFB=4.93dB) 15.18dB(NFB=6.80dB)
残留ノイズ Lch 0.30mV(10〜300KHz) 0.24mV(10〜300KHz)
(8Ω、VR最小)   0.06mV(IEC−A) 0.03mV(IEC−A)
  Rch 0.25mV(10〜300KHz) 0.11mV(10〜300KHz)
    0.10mV(IEC−A) 0.01mV(IEC−A)
消費電力(無信号時)   89.6W(100V、1.047A) 74.5W(100V、0.883A)

周波数特性比較(低域)

周波数特性比較(高域)

歪率特性比較(100Hz)

歪率特性比較(1kHz)

歪率特性比較(10kHz)

クロストーク特性比較

 総括

一番の課題であった発熱は、全体の消費電力が約15W低下したことと、電源トランスが大型になったおかげで、素手でどこを触っても(真空管を除く)全然気にならないレベルになりました。電源トランス換装作戦は大成功です!

出力段の動作点については、結局210V、33.3mAに落ち着きました。これは当初の動作点と比較すると、まだ10Vほど電圧が高いのですが、これ以上下げるとリップルフィルタのトランジスタの負担が大きくなり、やや不安を残してしまいます。この動作点でも最大出力は約4.5Wほど取れますので割り切りました。(実は全ての測定を終了した後で、電源トランスに105Vタップがあるのを思い出しました。現在の100Vタップを105Vタップに変更すれば当初の動作点に持っていくことも出来そうですが、取りあえず満足できる結果になったので、そのままで良しとすることにしました。(ほんとはめんどくさいだけだったりして...))

他の特性に関しては比較の表の通りで、要改善点として挙げていた全ての点において、なんらかの改善することが出来ました。特にノイズの低減に関しては、改めて電源トランスのショートリングとハムプルーフベルトの効果を認識しました。特にこのアンプは小さなシャーシに全てを詰め込んでいるのでなおさら効果大だと思います。

一方でクロストークは、ノイズフロアが下がったことによる中低域での改善は評価できるものの、高域では10kHz以上で6dB程度悪化してしまいました。これは、追加された出力段のDCバランス調整回路が電源基板に載っており、アンプ部から調整回路への両チャンネル分の配線がひとつに結束されているためです。この部分はドライブ段の出力信号が通っており、信号レベルがかなり高く、かつインピーダンスが結構高いので漏洩しやすいと考えられます。それでも20kHzで−63dB程度は取れていますので、ある程度の水準は確保できているのではないかと思います。

さて、残るは出力段の定電流源をグレードアップした事による音質の改善です。うーん、そう言われれば変わったかなぁという気がしますが、改造の前と後との比較試聴することが出来ないのでよく分かりませんでした。ちゃん、ちゃん!

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