6EW7差動プッシュプルアンプ(浮気編)

トランス換装をはじめとする改善によって、一応の完成を見た6DE7差動プッシュプルアンプですが、電源トランスの容量的、アンプセットとしての発熱に対する許容度的にはまだ余裕があります。もちろん今のままの出力でも何の不満もありませんし、ディレーティングを重視し、長く使用出来るアンプとしては好適であることは言うまでもありませんが、もう少し頑張れるのではないかという興味も一方では湧いてきます。そこで今回は6DE7は本妻として大事にするとして、6EW7に浮気してどのようなデータが取れるもかを試してみました。

6EW7(左)と6DE7

6EW7は6DE7と同様、テレビの垂直偏向発振および出力用の複三極管です。9T9管と呼ばれる比較的新しい規格の球で、MT9ピンと共通のソケットを使用し、直径約29mm(GT管と同じ)のバルブを持つ真空管です。発振用三極管のユニット1は6DE7のユニット1と全く同等で、垂直偏向出力用のユニット2は6DE7のそれよりも大型になっています。比較の為に両者と6CK4の最大定格および静特性の表を下に示します。

6DE7と6EW7のピン配置およびヒーター規格は全く同じですから、そのまま差し替えが可能です。Ep−Ip特性のグラフが無いので詳細は不明ですが、出力管部の静特性を比較すると、同じバイアス電圧では6EW7の方がプレート電流が多く流れています。差動プッシュプル回路の本機の場合、定電流源の電流値(一本当たり33.3mAで計66.6mA)の変更無しにそのまま差し替えると、バイアスが深くなりその結果プレート電圧がその分減少するので、ロードラインが左へ移動します。一方、最大定格が大きくなって、かつrpが小さくなっていることから、零バイアス時の電流特性も左に寄っている(傾きが急になっている)と想像できます。即ち、それぞれ左に移動した両者の交点が、Ip=66.6mAを超えていると出力は現状を維持しますが、66.6mAを下回った場合は出力が低下することになります。したがって本機の場合、出力段の動作点の調整をしない場合は、定格の大きな球に差し替えたにも関わらず出力が下がる場合も有り得るということになります。

6EW7の詳細スペックが不明の為、動作点をいくつか試してみました。最終的にはプレート電圧214V、プレート電流45mA、グリッド電圧は平均−25.7V(−25.5Vから−25.9までに納まっています。)に落ち着きました。これは電源トランスのスペック(200mA)による制限です。プレート電流は定電流回路の半固定VRを調整するだけでOKです。プレート電圧を上げるためにリップルフィルタのトランジスタのベース抵抗、39kΩに100kΩの抵抗をパラで接続して電圧を調整しました。

 球と球の距離はわずか6mm!

 測定データ

6EW7差動PPと6DE7差動PPとの比較を表にしてみました。

    6EW7差動PP 6DE7差動PP
最大出力 Lch(100Hz) 6.66W 4.50W
(8Ω、5%THD)    (1kHz) 6.84W 4.67W
     (10kHz) 6.94W 4.72W
  Rch(100Hz) 6.94W 4.33W
     (1kHz) 6.74W 4.47W
     (10kHz) 7.41W 4.43W
最低雑音歪率 Lch(100Hz) 0.0282%(0.05W) 0.0341%(0.07W)
(8Ω)    (1kHz) 0.0252%(0.07W) 0.0321%(0.07W)
     (10kHz) 0.0303%(0.05W) 0.0334%(0.07W)
  Rch(100Hz) 0.0335%(0.05W) 0.0393%(0.07W)
     (1kHz) 0.0285%(0.05W) 0.0341%(0.07W)
     (10kHz) 0.0296%(0.05W) 0.0349%(0.07W)
ダンピングファクタ Lch 5.56(1V → 1.180V) 5.00(1V → 1.200V)
(8Ω、1kHz、1V) Rch 5.24(1V → 1.191V) 4.69(1V → 1.213V)
残留ノイズ Lch 0.133mV(10〜300KHz) 0.24mV(10〜300KHz)
(8Ω、VR最小)   0.022mV(IEC−A) 0.03mV(IEC−A)
  Rch 0.063mV(10〜300KHz) 0.11mV(10〜300KHz)
    0.007mV(IEC−A) 0.01mV(IEC−A)
消費電力(無信号時)   90.6W(100V、1.062A) 74.5W(100V、0.883A)

全高調波歪率特性

6DE7アンプとの歪率特性比較(100Hz)

6DE7アンプとの歪率特性比較(1kHz)

6DE7アンプとの歪率特性比較(10kHz)

6CK4アンプとの歪率特性比較(1kHz)

 総括

測定結果は予想以上の好成績が出ました。まず周波数特性と高域のクロストークについては、予想通り変化ありませんでした。(中低域のクロストークがノイズレベルに達している点も同様です。) ゲインもバイアス電圧があまり変わらなかったので、結局ほとんど変化がありませんでした。したがってこれらのデータは割愛します。今回の焦点である最大出力ですが、7W弱と約1.5倍に増やすことができました。意外だったのはノイズが大幅に減少したことです。球を差し替えたのと出力段の動作点を変えただけですから、これは差し替えた6EW7(GE製)が、それまでに使っていた6DE7(SYLVANIA製)と比較してローノイズだったと言う他はないと思います。このノイズの減少に助けられて最低雑音歪率は両チャンネルとも0.02%台を記録しました。ダンピングファクタも向上していますが、これは出力管の内部抵抗が低くなったことに起因しています。パワーアンプ全体の出力効率(両チャンネルの出力の合計/消費電力)の比較をしてみますと、消費電力は約16W増えたものの、最大出力が約1.5倍になっていますから、6DE7PPアンプが12.3%に対して6EW7PPアンプが15.8%と大きく向上しています。

次に6CK4との比較を考えてみます。出力は6CK4差動PPアンプと同等レベルまで出すことができましたが、負荷抵抗とプレート電流が同じですので、これは理屈に合っています。もう少し詳しく動作点を見てみると下の表のようになります。

  6EW7 6CK4
プレート電圧 214V 266V
プレート電流 45mA 45mA
グリッド電圧 −25.7V −29.9V
プレート入力 9.63W 11.97W
ヒーター電力 5.67W 7.88W
出力効率 23.4% 17.9%

注): 出力効率=両チャンネルの平均最大出力/(出力段のプレート入力+ヒーター電力)×100[%]

出力効率の点でかなり差がありますが、これは6CK4のヒーター電力が大きいことと、rpが6EW7と比較して高いために、より高いプレート電圧を必要とするからです。なお、6EW7のヒーター電力はユニット1とユニット2の合計ですから、厳密に言えば出力効率の差はさらに開くことになります。こうして比較しますと、プレート損失12Wの6CK4に対して10Wの6EW7が同じ出力を出せるのですから、差動プッシュプルの場合rpが低い方が出力効率が高く、最大出力に対して有利だと言うことができます。(純A級のアンプで効率をうんぬんする意味は薄いとは思いますが..)

さて、6EW7PPアンプの発熱についてですが、結果から申し上げますと何とか許容できるレベルだと思います。差し替える前と比較して、確かに各部の温度は高くなっていますが露出している各部品(真空管を除く)は全て素手で触り続けられる温度です。消費電力は電源トランスを変更する前よりも増えていますが、それでも温度が下がっているのは、改造後の6DE7PPアンプに対して、増えた消費電力のうち約70%は6EW7のプレート入力の増加分ですので、シャーシ内にこもる熱がほとんど増えていないためではないかと考えています。

少し気になる点は、電源投入直後に左チャンネルから聞こえてくるハムノイズです。これはしばらく運転し続けると次第に小さくなり、しまいには聞こえなくなるのですが、その間片方の6EW7のプレート電流が安定せず電流バランスが崩れてしまう結果、低域での歪率が悪くなっています。これは真空管自体の問題だと思いますが、4本しか購入しておらず予備がない状態ですので仕方ありません。

ところで、この6EW7は東京のクラシックコンポーネントというお店から通販で購入したのですが、始めに送られてきた6EW7のうち1本が不良品で、運転中にプレートが赤熱するほど電流が流れ、電源のリップルフィルタのトランジスタが飛んでしまうという事故がありました。初期不良ということで交換に応じて頂けましたが、一本1000円の真空管に対して送料をお店の負担で交換してもらったので、儲けどころか大赤字だろうと思います。また、速やかな対応には実に感心しました。この場を借りて厚く御礼を申し上げます。真空管を、特に通販で購入する際には信頼の置けるお店から購入することが必要だと感じました。

出力が約1.5倍になり、ノイズも少なくなり、歪率もダンピングファクタも良くなりました。しかもアンプの発熱も許容範囲となると、浮気が本気になりそうです。う〜ん悩ましい。

(後日談)

全てのデータが6EW7の時の方が良いので、結局6EW7に差し替えて使用しています。ただし、プレート電流を40mAに絞って、消費電力、発熱を押さえています。この状態で約5.5Wの最大出力が出ています。今のところはこの状態がベストと考えています。左チャンネルの電源投入後のハムノイズは相変わらずですし、今使用している6EW7の見てくれもあまり良くないので(ユニット1(黒)とユニット2(灰)のプレートの色が揃っていないし、上下のマイカが斜めになっているものがあります。)、状態の良い6EW7を見つけたらそれと置き換えてみたいと思っています。

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