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  どこか遠くへ


夜のとばりが降りようとする時刻
空が朱い
こころ騒いで
家を飛び出した
空と海の見える場所へ

すでに夕陽は沈んだのに
いくすじもの雲の帯
水平線と同じ方向にのびて
橙から朱へ
朱から赤へ
刻々と色を変えている

むかし
こころ寄せるひとと
並んで海の夕焼けを見ていたことがある
どこか遠くへ連れて行って と
つぶやいたのか
のみこんだのか

どこか など どこにもなく
遠いところも あるはずはなかった

あるのは 日常で
足元だけみつめて
小さく息をしてきた
ひとりになるために回り道をしてきただけと
髪をなぶる風に教えられた

それでも
暮れ残る空の下
こころふるわせて
立ちつくすのは なぜ







                                                      
(2006年6月)

 
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