器
それは
白と深い緑の釉のかかった
小鉢だった
焼き物と呼ぶのもためらわれるほどの
素人のわたしの手がこねたもの
住まいの裏手の
踏切のない線路を越え
畦道ともいえない
草の道を歩いて
早春の谷川で摘んだ芹の
おひたしを盛りつけて
とどけた器
住む人が絶えて
ひとつの家が役割を終えた
気がつけば 町の片隅
跡形もない地面になっている
記憶をとじこめていた箱が解体されると
堆積した時間は
どこにいくのか
もろとも粉々に砕け散っただろう
わたしの器
器に満たした小さな思いが
あの空のあたり
まださまよっている
(2006年9月)
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