☆藤色に染まって

 わが家には、これといって藤花の名品があるわけではないが、房が長く垂れ下がり蔦が絡む様は、昔から好んで描かれてきた画材である。

「オールド・ノリタケ名品集(平凡社)」より

2015.5.3

 先日歯科の待合室で見たローカル情報誌に、亀山の太厳寺というお寺の藤が見頃のように書かれていたので翌日早速出掛けてみたが、残念ながら早すぎて、朝やっと房の最上部が開花したばかりだということだった。それで6日後に満を持して再度訪れてみると、今度こそ本当の見頃を迎えていた。見物客も多過ぎず、藤棚の下で甘い香りに包まれながら、腰掛けて花をゆっくりと眺めているのは実に心地よかった。170年程経っているそうだが、近年次第に樹勢が衰えてきているそうで、この先何年花を咲かせ続けられるか心配の声も聞かれた。木の保存協力金として若干の入場料を要したが、これも当然のことかと納得した。

 この辺りでは藤の花が真っ盛りである。オールドノリタケで藤の花と言えば真っ先に思い浮かぶのが写真の花瓶だが、残念ながら持ち合わせてはいない。この図柄の面白いところは、花と種子という、時間的に異なる段階を一つの画面に違和感なく描き込んでいる点である。金盛りと黒い縁取りがアクセントとなり、アールヌーボー風な描き方が魅力の逸品である。

 それにしても、長い年月を毎春、見事に花を咲かせるその生命力はあまりに一途で、迷いや手抜きなどなくて、どんなにか植物のほうが人間より上等であろうかと考えてしまうこの頃である。