☆危険な兆候
2012.7.31
最近骨董市で目にして以来、気になっているものがある。明治期の輸出用七宝製品だ。実は七宝の歴史は古く、一説によると紀元前何百年の中近東にまで遡るのだそうだ。現在でもブローチやペンダント、花瓶などに人気があるようだが、当時はいわば七宝の黄金期で、明治期に行われた万博では、当時の日本の工芸品の素晴らしさを西洋にアピールするのに一役買ったようである。外貨稼ぎの輸出用だったために、国内ではほとんど知られていなかったものだが、今こうして里帰りをして、精緻で繊細、優雅な、溜め息が出るほどの逸品が、時には身近な骨董市にお目見えすることになるのである。
それは紅茶入れや小物入れ、また一輪挿しであったりと小品ではあるが、花鳥風月の伝統的な図柄がまるで絵画のように描かれていると、職人の魂を込めた技にただただ圧倒されて見飽きることがない。気の遠くなるほど手間のかかる製品を、今の時代いったい誰が作れるかと考えると、たとえ何十万と言われても、それを高価だとは到底思えない。
(インターネットから抜き出した下の8枚の画像は、明治期日本の七宝芸術を代表する逸品である。)
しかし、確かにそれはそうだが、こんなふうに考えること自体、またまた危険な兆候だ。普段、ガソリン価格の1円単位の高下に神経を尖らせている自分が、ツボを刺激する古物となると、突如違うギアに切り替わり、しかもそれがしばらくはロック状態になってしまうことがあるから要警戒である。
ところで、なんとオールドノリタケにも七宝風作品が存在する。写真の花瓶だが、もちろん本家には及びもつかない。しかし、何でも取り入れてやろうという進取の精神には、いつもながらに恐れ入る。一つの会社がこれほど豊富な製品のバリエーション展開をしていたのも驚きである。