2012.2.14

☆“あかり”考

 新しい家には懐かしい灯りを再現したかった。寝室の片隅のたった3畳の空間だが、ノリタケの電笠の下に、幼い頃母にねだって買ってもらったフランス人形を飾ってみた。

 きっと私たちは、夜を必要以上に明るくし過ぎたのだ。闇の消滅と人の分散。

 遠い日の記憶の中のあかり。普及品の電笠のついた裸電球を、ソケットのスイッチをひねったり、子供でも届くよう長く伸ばされた紐の先を引っぱって点ければ、浮かび上がる食卓の風景。卓袱台の周りに家族が正座し食する団欒の姿。さしたる照度もない明かりの下に人が集い、周囲は夜の闇に優しく包まれていた生活。

 以前、ある照明デザイナーがテレビでこんなことを言っていた。「夜の明かりは、夜間に昼間を作り出すことではない。闇の中に人間の営みのあかりを灯すことなのだ。」言葉は正確ではなかったかもしれないが、確かこのような意味だった。