6DE7差動プッシュプルアンプ

ある日、日本橋の東京真空管で6DE7が特売されていたのを見て衝動買いしてしまったことから、製作することを決意したアンプです。6CK4もそうですが、TVの垂直偏向管はなかなか手頃な三極出力管が多いので以前から注目していました。この球は発振用の三極管と偏向出力管との複三極管です。同種の球は発振用の三極部のrpが高い球が多いのですが、この球はそこそこ低いので、使いやすいと思います。全段差動でいくにはrpが低い分μが低いので二段構成は難しく、三段構成にならざるを得ません。それぞれの三極部のスペックを眺めていると、ぺるけさんが製作された6AH4GT差動プッシュプルアンプで使われている6FQ7、6AH4GTと(かなり無理やりですが)似ているので、アンプの構成をそっくりそのまま頂戴してしまうことにしました。(これも勉強のためです。)

人が製作したアンプをただ単に模倣しても面白くないので、MT複合管を使うからには、ぺるけさんのアンプよりもコンパクトにまとめることと、回路インピーダンスをより低く設計し、あわよくば、より広帯域のアンプに仕上げることを目指して製作しました。

 回路図

アンプ部の回路図は以下の通りです。

初段、次段は2SK40をパラで定電流源として使用しています。電流はひとつ当たり約4mAですので、それぞれ約8mAということになります。初段はゲインが高すぎたのでソース抵抗を入れて電流帰還を掛けて調整しました。出力段のカソードに入っている抵抗はプレート電流のバランスを観測するためだけが目的です。絶対値が正しいというよりは2本の抵抗値をそろえることが大切だと思います。(バランスを観測するために抵抗を入れてるくせに調整回路を省いていますので、精神衛生上は、この抵抗が無いほうが良いかもしれません。)

電源部の回路は以下の通りです。

今回のアンプでは終段の動作点の設定を、当初Ep=200V、Ip=35mA、Eg=約−23Vとしていました。電源トランスのLH−150のB電源用巻き線は280Vと300Vです。ダイオードで整流した場合は、低いほうのタップを使用しても不必要に高い電圧が得られてしまい、大変まずい事になってしまいます。リップルフィルタのトランジスタに電圧調整を任せてしまうと、負担が大きすぎるため、いろいろと対処した結局、必要以上に高い電圧を出力管に掛けることになってしまいました。最終的には、Ep=230V、Ip=30mA、Eg=約−29Vとなり、理想から遠く外れてしまいました。これは明らかに電源トランスの選択ミスです。(とはいってもEpに200V程度を必要とする時には、あまり理想的な電源トランスはメーカの一般品としては存在しないようです。)

シャーシはIDEAL(アイデアル)のNo−5(223mm×133mm×51mm)と、かなり小さいシャーシを使うことにしたので、電源部は蛇の目基板を利用しコンパクトにまとめ、外付け放熱板に取りつけてシャーシに止めました。(このアンプの構造は下の画像を参照してください。)

 後ろから見たところ

 放熱板を引っ張り出すと

 はらわた

 こうやってメンテナンスします

 測定データ

NFBを掛ける前のデータです。

周波数特性

全高調波歪率

ダンピングファクタ Lch 2.24(1V → 1.447V)
(8Ω、1kHz、1V) Rch 2.22(1V → 1.451V)
残留ノイズ Lch 0.53mV(10〜300KHz)
(VR最小、8Ω)   0.09mV(IEC−A)
  Rch 0.37mV(10〜300KHz)
    0.17mV(IEC−A)

結局NFBは約5dBに設定しました。最終の特性は以下の通りです。

周波数特性

全高調波歪率

クロストーク

最大出力 Lch 3.7W(1kHz)
(5%THD) Rch 2.9W(10kHz)
ダンピングファクタ Lch 4.26(1V → 1.235V)
(8Ω、1kHz、1V) Rch 4.10(1V → 1.244V)
仕上り利得 Lch 16.10dB(NFB=5.26dB)
  Rch 15.76dB(NFB=4.93dB)
残留ノイズ Lch 0.30mV(10〜300KHz)
(VR最小、8Ω)   0.06mV(IEC−A)
  Rch 0.25mV(10〜300KHz)
    0.10mV(IEC−A)
消費電力   89.6W(100V、1.047A)

 総括

全般的な話としては、得られた特性はそこそこ満足できるものでした。気になる点を書き出すとすれば、出力段のDCバランスの調整回路を省いてしまったことから、低域の周波数特性において両チャンネル間で差が生じています。NFを掛けてしまうとほとんど判らないのですが、これは面倒くさがらずに調整回路を入れるべきでした。また、両チャンネル間で最大出力に差が出ていますが、これは定電流回路に調整回路を設けておらず、Ipに左右の差が少しある事が関係していると思います。あとひとつはクロストークでしょうか。シャーシが小さいことと部品配置が非対称であることからRchからLchへの漏洩が高い周波数で多くなっています。

さて、目標にしていたぺるけさんのアンプよりも広帯域に仕上げるという点ですが、結果的には達成できませんでした。ドライブ段のrpが10kΩ程度で負荷が18kΩですのでドライブ段までの高域特性は、まああんなものじゃないかと思います。NFBが約5dBと浅めなので、必ずしも今回ほどの補正は必要が無いとは思いますが、今回は無理して高域を伸ばすよりは無難な選択をしたとご理解ください。それでも仕上がり状態でLchが92.5kHz、Rchが97.1kHzで−3dBですから、それほど悪い成績ではないと思います。

電源トランスのB電源用巻き線の電圧が必要以上に高いことから、無駄な電力を消費させることを余儀なくされた事と、コンパクト設計を目標に掲げたために、かなり小さいシャーシに無理やり詰め込んだ事が重なって、放熱が苦しくなり、かなり熱を持つアンプになってしまいました。正直言ってこれでは不合格です。とてもこのアンプを夏に使う気になれません。

しかし、実は放熱については対策案があります。LH−150とほぼ同寸法で、B電源用巻き線が220V、200mAのタップがあるトランスを発見して、すでに入手しました。これは横浜のWELCOMEというお店のオリジナルトランスでFP655というものです。LH−150と比較して、コアの積厚が5mmほど厚く、容量的にはこちらのほうが大きくなっています。また、ショートリングとハムプルーフベルトも付いている豪華版です。今回のアンプではLH−150から容量いっぱい電流を取っているので、トランス自体の発熱もかなりのものですから、電圧が低くなることと合わせて、容量の大きなトランスに変更すると言うことは、アンプ全体の発熱がかなり小さくなることが期待できます。

電源トランスを換装するついでに以下の点についても改良を施す予定にしています。

1.出力管の動作点を当初のものに変更する。(これで4W強の出力が期待できます。)

2.出力段のDCバランスを調整する回路を追加する。

3.出力段の定電流源を、LM723を使用した高精度のものにグレードアップする。

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