25CD6GBクロスシャントプッシュプルアンプ

本機は前回上手く行った6LW6クロス シャントプッシュプルアンプと同様の手法で、ダブルエンデッドプッシュプル(DEPP)をクロスシャントプッシュプル(CSPP)化した アンプです。

 DEPPアンプのCSPP化について

私のお気に入りであるCSPPアンプは、徐々にその実力を認める人が増えつつありますが、まだまだアマチュアアンプビルダーの製作対象としては 一般的な存在ではありません。その理由の一つに、高い励振電圧を要求する出力段をいかにドライブするかという設計の難しさがあると思います。 また、その高い励振電圧を得るには出力段と同じ(あるいは低い)電源電圧では最大振幅が足らないことが多く、ドライブ段用に高電圧の電源を 別途用意しようとすると、適当な電源トランスが見当たらなかったり、高価な高耐圧のパーツが必要であったり、絶縁に特別な注意を払わなければ ならないなど、部品調達や製作上の難易度も決して低いものではありません。

少しでも簡単に(楽に)アンプビルダーがCSPPアンプを得る方法として、お勧めできる方法のひとつに既存のDEPPアンプを改造して CSPP化する方法があります。もちろん、どんなDEPPアンプでも容易にCSPP化できるわけではありませんが、3段構成以上のアンプであれば それほど苦労せずにCSPPアンプに改造することができるものがあるように思います。ここでは、いわゆるムラード型と呼ばれる3段構成の 多極管アンプを、マッキントッシュタイプのCSPPアンプに変貌させる方法を考えてみたいと思います。

ムラード型DEPPアンプのモデルとして、下図の回路を取り上げます。多極管UL接続プッシュプルのムラード型アンプとしては、ごく普遍的な ものだと思います。

まず、マッキントッシュタイプのCSPPの成立条件として、バイファイラー巻き(またはトリファイラー巻き)の出力トランスが必要です。 これまではそのようなトランスの入手は難しかったのですが、今なら株式会社染谷電子より2種類のバイファイラー巻きのトランスが販売されていますので 入手に関する問題はありません。特にASTR−12というトランスは、TANGO(ISO)のFE25シリーズやFX40シリーズなどの出力トランスと、 投影形状および取り付け寸法が同じですので、それらのトランスを使っているアンプでしたらシャーシの追加工無しでトランスの載せ換えが可能です。

次にドライブ段ですが、以下の2つのポイントをクリアすれば殆どの場合問題は無いと思います。

  1.ドライブ段の電源を出力段からのブートストラップによる給電に変更する。

  2.初段とドライブ段の直結をコンデンサ結合(C結)に変更する。

1.のブートストラップによる給電は、CSPPアンプ本家のマッキントッシュのアンプが行っている方法で、これによりドライブ段専用の高電圧電源を 省略し、既存のB電源回路をそのまま利用することが可能となります。ドライブ段へのブートストラップ電源は、出力管のプレートの振幅を利用して 高電圧を得るものですので、ポジティブフィードバック(PFB)となり、CSPP出力段の50%カソードフォロア効果を減じる方向に働きます。 そのため、利得が増えて出力インピーダンスが高くなります。

ブートストラップを掛けることによってドライブ段の最大振幅を大幅に増やすことができるのですが、ムラード型回路は初段とドライブ段を 直結しており、ドライブ段の有効電源電圧が高くないため、多くの場合ブートストラップを掛けるだけではドライブ電圧が足りません。そこで、2.として、 初段とドライブ段をC結にして、ドライブ段の有効電源電圧を高くしてやります。C結にするとドライブ段の共通カソード電位がグランドレベル近くまで 下がりますので、別途負電源を用意する必要があります。通常は−100V近い負電源を追加することは難しいと思われますので、電源トランスの ヒーター巻線等を利用してマイナス数Vの負電源を作り、共通カソード抵抗を半導体による定電流回路に置き換えるのが簡単であろうと思います。 もちろん−100V程度の負電源が用意できる場合は、カソード抵抗をグランド基準から負電源基準に変更するだけで同様の状態を作ることができます。

出力トランスの換装とドライブ段の2点の改造を施した回路の例が上図になります。このようにあまり部品点数を増やすことなくCSPP化することが 出来ます。これで出力管が多極管の場合は、ほぼ問題無く出力段をドライブできるようになると思います。上の例では、出力段のUL接続がネイティブ動作に 変わりますので、出力の大幅アップも期待できます。ここでの検討事項としては、ドライブ管に内部抵抗の低い球を起用して、少しでも最大振幅が 大きくなるようにしてやることです。ブートストラップを掛けると、ドライブ段の実質的な負荷抵抗は、 実抵抗の5〜10倍程度になりますので、抵抗値をDEPPの時よりも小さくするか、電流を減らして無信号時のプレート電圧ができるだけ高く なるように設定するのが、最大振幅を稼ぐコツです。

一方、出力管が三極管の場合はgmが低いため、これらの改造を施してもフルスイングできない場合があります。この場合は、ドライブ段専用の 高電圧電源を用意するしか方法は無いように思います。

ブートストラップによるドライブ段の最大振幅の拡大と利得上昇は、ドライブ段の実質的な負荷抵抗が高くなることから来ていますので、詳細は 実質負荷抵抗によるロードラインを引いて求めます。直流ロードラインと交流ロードラインの両者を引いて、検討して下さい。 ドライブに多極管やFET、Cascomp応用回路等を用いると、ほぼ負荷抵抗が高くなる割合で利得が高くなりますので10数dBもの利得上昇となり、 応分に出力インピーダンスの増大の度合いが高くなるため、CSPPの特徴を損なう恐れがあります。一方、三極管でドライブした場合には、球のμ以上の 利得にはなりませんので利得の上昇は2〜3dBに留まり、出力インピーダンスの上昇も大きくないため、ドライブ段には三極管を用いるのが得策では ないかと思います。

以上のような改造を施すと出力段のドライブの問題はほぼ解決できると思います。しかしながらCSPPの出力段は50%カソードフォロアとなるため DEPPの時よりも利得が低く(1.4倍から1.9倍くらいになります)、そのままだと全体として利得不足気味になることが多いと思います。そこで、 可能であれば初段を利得の高い球に変更することが出来ればベターです。拙の6LW6アンプの場合は、初段を5842から6CM4へ変更して 利得アップを図りました。染谷電子のバイファイラー巻き出力トランスは、NFBを掛ける前提としてトランスでの高域特性を早く素直に減衰させる ことによって出力段を第一ポールとすることを意図されていますので、初段、ドライブ段に低rpの球を選択して、電圧増幅回路のインピーダンスを 低く設定し、高域カットオフ周波数を出来るだけ高くなるようにすることが良い結果を生む鍵です。

このページで説明しましたCSPPのドライブ回路について(DEPPアンプからの改造ではなく、一からの製作されたものですが) お手本ともいうべきCSPPアンプを、 黄金のアンコールさんが作られましたので、ご参照下さい。

 

本機の場合は、CSPP化する元の回路は下図のように、UL専用巻線を持つ出力トランスを用いた変則UL接続PPアンプでした。 さて、どのような回路になるのでしょうか?

 回路図

下図が本機のアンプ部回路図です。本機は元回路が水平偏向管による変則UL接続でしたので、トリファイラー巻きOPTを用いてスクリーングリッドの 給電を行っていますが、その他は説明しました手順の通りに改造を施しました。

電圧増幅管のソケットが基板タイプでパターン化されており、また使用している球のピン配置がやや特殊でそのまま挿し替えられる利得の高い球が 無かったので、初段、ドライブ段ともDEPPの時と同じ球を使いました。ブートストラップを掛けることで、2〜3dB程ドライブ段の利得が増えること、 そして初段の負荷抵抗を倍にして若干の利得アップを図りましたが、オーバーオールNFBがDEPPほどは必要無いということを差し引いても 若干利得が不足気味となりました。オーバーオールNFBは10dB程度掛けた方が音質的に好みでしたので、やや利得が足りない状態ではありますが、 完成としました。

下図が本機の電源部回路図です。赤で囲った部分以外は、既存の電源回路そのままです。追加した負電源は余っていたヒーター巻線を利用して 作りました。

以下、工事中です。ちょっとだけ画像を披露します。

 測定データ

 総括

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