12B4A SEPPミニアンプ

前作の6C19PパラレルSEPP DCアンプは、なかなかご機嫌な音を奏でてくれるアンプに仕上げることが出来ましたが、残念ながら私の手元にはありません。 なぜならば、6CK4差動プッシュプルアンプを預かって頂いているCDショップのご主人が、6C19Pアンプの音を大変気に入ってくださったので、ご要望にお応えしてお店に置いてあるからです。 自宅の近所ですからいつでも聴きに行けるといっても、毎週末というわけにはいきませんから、ちょっぴり寂しい思いをしています。 そこでいつでも家で聞くことが出来るように、もう一台SEPPアンプを作ることにしました。

(注: 本機のご紹介の前に5687SEPP QRPアンプをご紹介しましたが、製作を始めたのはこの12B4Aアンプが先です。12B4Aアンプは注文した出力トランスがなかなか入らなかったので、先に5687アンプを仕上げたため順序が逆になりました。)

これまでの私のメインのアンプは6CL6差動プッシュプルでした。このアンプの出力はたった1.5W+1.5Wですが、今までフルボリュームで使ったことはありません。6C19Pアンプは10W+10Wですから、出力も そしてアンプの大きさも 私の部屋に置くには少し大きすぎます。そこで、性懲りもなく1W+1W程度のミニアンプに仕上げることにしました。

1W+1Wのミニアンプといっても、6CL6差動プッシュプルアンプのように、コストの割にはいい音がするというような言い訳をしなくてもいいアンプに仕上げることを目標にしました。 6CL6アンプの時はそこそこいい音が出るアンプを安く作るというコンセプトだったのですが、そもそも私の中に1W程度のアンプではあまり良い音は期待できないという、何と言いますか先入観みたいなものがあり、良い音が期待できないならば出費を安く抑えて、安い部品を使っているのであまり音に期待をしないで下さい、というような言い訳を先に作ってしまったという感があります。しかし、1W程度のアンプをメインとして常用しているうちに、なかなか侮れないなという気がしてきました。(もちろん6CL6アンプに決して満足している訳ではありません。むしろこのアンプには気に入らない点があるので、そのうち改良したいと考えています。) そこで本機ではそれなりの投資をして音質、物理特性、小型化に関して安易な妥協をしないことに挑戦しました。(といってもそれほど高くつく訳ではありません。私がそんな高いアンプを作る財力を持っているはずありませんから。) 

本機は前作の6C19Pアンプで妥協せざるを得なかった以下の部分を、強化することを主眼に置いています。

・アイドリング電流の設定

6C19Pアンプでは発熱の為にアイドリングを絞らざるを得なかったので、本機では8オーム負荷時においてA級動作になるようにアイドリング電流を設定することを目論んでいます。(もちろん最終的には完成時の発熱を考慮して決定しなければなりませんが。)

・電源のリップル電圧を下げる。

前作では同じく発熱の為にπ型リップルフィルタの抵抗の定数を小さくせざるを得なかったので、残留ノイズが増加し、低域のクロストークも悪化する事態を招きました。そこでリップルフィルタを強化して、残留ノイズと低域のクロストークを前作よりも改善することを目標とします。

以上が主な点ですが、今回は1W+1W程度のミニアンプですから、扱う電力(電流)が小さいので前作で苦しんだ点は、設計時に留意しさえすればそれほど大きな問題にはならないでしょう。

 回路図

6C19Pアンプと回路構成は殆ど同じです。 出力が小さいので6C19Pのパラレルから12B4AのシングルSEPPにしたこと、そして出力トランスが絶縁トランスなのでDCサーボ回路を取り除きました。 あとは電源電圧の変更に伴う定数変更ですが、6C19Pアンプの時に発熱に苦しんだので各段の電流は少なめに設計しています。 出力段のアイドリング電流は35mAに設定し、8Ω負荷時のA級動作を確保しました。

本機で部品選定に悩んだのは出力トランスです。 出力段が12B4Aということから前作の128Ω:8Ωよりも変換比の大きなトランスを考えました。12B4AのEg=0の時の内部抵抗を作図的に求めると、600Ωを少し切るくらいですので600Ω:8Ωのインピーダンス変換が出来るものを探しました。いくつか候補が挙がりましたが最終的にはタムラのF−483とTF−5711とが残りました。 F−483は一次側巻線を並列にして、しかも二次側は16Ωタップに8Ω負荷を接続するという変則的な使い方をしなければいけないのが少し気になったのと、コンパクトなTF−5711を使うとぴったりのシャーシがあったので、結局TF−5711を選びました。

このトランスはストックマークがついているにも関わらず在庫が無く、特注の電源トランスよりもはるかに納期がかかってしまいました。 一次側の直流抵抗が約60Ωと高く、かなり細い線でターン数が多いようで低域はかなり良好な特性が出ていますが、逆に高域は思ったほど伸びませんでした。また、このトランスを通すとダンピングファクタがかなり下がってしまったので、当初は出力トランスをNFBループの中に入れるつもりは全く無かったのですが、6dB弱程度のオーバーオールNFBを掛けて高域特性とダンピングファクタを整えました。

電源回路は今回も悩みました。 適当な電源トランスが無いのです。 最初は小さなトランスを数個使用することを考えましたが、シャーシレイアウトがどうしても上手くいきませんでしたので結局、ノグチトランスにお願いして特注トランスを巻いてもらうことにしました。 トランスのスペックはここです。 特注トランスではありますが、同仕様の同社オリジナルトランスの倍くらいの値段ですので想像よりも安価でした。 使いにくいトランスを無理矢理使うよりも、思い通りの電圧、電流が取り出せるトランスを作った方が満足できる結果が出るならばむしろ正しい選択ではないかと思っています。特注トランスなんて手が出ないという方は5687QRPアンプの電源回路を参考にされたら良いと思います。

 実装

本機も部品がやっと並ぶくらいのちいさなシャーシを使っていますので、蛇の目基板を使ってほとんど回路は基板の上に展開しました。 特に今回は電源回路も同じ基板に載っていますので、基板さえコピーすれば誰が作っても再現性ばっちりというアンプになりました。 惜しむらくは特注電源トランスや店頭に並んでいない出力トランスを使用するなど、あまりに独善的なので興味を持つ人はいないだろうな〜っという点でしょうか? でも電源回路や出力トランスは代案がいくらでも考えられますからね。 もし基板のパターンが見たいという奇特な方がおられましたらメールでご請求下さい。

 はらわた(一面基板で面白くないでしょ?)

本機もTAKACHIのケースを使用しました。ネジだけでバラバラになるので、高密度実装?のアンプには向いていると思います。 上のはらわた写真では何も分からないでしょうから、このケースの美点であるバラしやすさを利用してもうちょっと中身をご紹介しましょう。

 電源部です。ヒューズがどこか分かるかな?

平滑用コンデンサは天板からわずか5mm程度しかクリアランスがないという際どいレイアウトです。 フリーウェアのCADソフトのおかげでアクロバティックな設計が出来るようになりました。(本機の機構設計もPCBEという基板作成用のフリーのCADソフトを使用しました。)

  アンプ部です。8個のLEDが光ってます。

下の写真が組み上げた直後の基板です。 この基板はフリーソフトのPCBEを使って設計しました。 基板左上の紙が倍寸で打ち出した部品図付きのパターンの部品面透視図、そしてその左側のがパターン面側から見た配線パターンです。 こうやってプリントアウトすると配線ミスもかなり少なくすることができます。

 蛇の目基板にほとんどの部品が載っています。

 測定結果

最大出力 Lch(100Hz) 762.5mW
(8Ω、1%THD)    (1kHz) 781.8mW
     (10kHz) 777.2mW
  Rch(100Hz) 778.8mW
     (1kHz) 786.2mW
     (10kHz) 765.7mW
周波数特性 Lch(at 10Hz) −0.71dB
(2V、8Ω、1kHz基準)    (at 100KHz) −1.58dB
  Rch(at 10Hz) −0.52dB
     (at 100kHz) −2.31dB
最低雑音歪率 Lch(100Hz) 0.0085%(0.07W)
(8Ω)    (1kHz) 0.0062%(0.01W)
     (10kHz) 0.0084%(0.005W)
  Rch(100Hz) 0.0138%(0.007W)
     (1kHz) 0.0072%(0.015W)
     (10kHz) 0.0097%(0.007W)
ダンピングファクタ Lch 7.41(1V → 1.135V)
(8Ω、1kHz、1V) Rch 7.35(1V → 1.136V)
仕上り利得 Lch 10.70dB
 (at 1kHz) Rch 10.60dB
クロストーク Lch → Rch −96.06dB(at 20Hz)
    −87.66dB(at 20kHz)
  Rch → Lch −95.71dB(at 20Hz)
    −89.54dB(at 20kHz)
残留ノイズ Lch 15.63μV(10〜300KHz)
(8Ω、VR最小)   2.942μV(IEC−A)
  Rch 16.89μV(10〜300KHz)
    3.206μV(IEC−A)
消費電力 39.0W(100V、0.411A)

周波数特性

全高調波歪率特性

クロストーク

 総括

予定外の5687SEPP QRPアンプを含めて、同構成のSEPPが3作続いたことになります。 さすがに3台も作ると、どんなアンプなのかが、だんだんと分かってきました。 6C19Pアンプを組み上げた時に感じた回路のポテンシャルの高さは、本機が叩き出した物理特性で証明できたと思いますし、また、この回路は大変安定して動作しますので失敗が少ないと言えると思います。

本機と、先にご紹介した5687SEPP QRPアンプとは出力管、出力トランスは違いますが、回路的には双子と言えるアンプです。(たまたまですが、電源電圧もほぼ同じになりましたし。) この両者は、制作費から言えば雲泥の差がありますが、結果的に得られる音質が費用の差に見合うものかという点においては判断が難しいです。 両者とも共通のカラーをベースに、主に出力トランスの違いが音質の違いの大部分を占めているのではないかと感じています。(これは私の独断と偏見によるもので、もしかすると出力管の違いが大きいのかもしれませんが) 5687アンプで使用したST−48(山水、@475円)は大健闘と言えますが、やはり本機の方が透明感において表現力が上だと感じています。(と思わなければ、素直に価格差を受け入れられないので?)

音質はともかく、物理特性や小型化の目標はほぼ達成できたかなと思っています。今までの作品と比べても、妥協した点が少ないことから満足のいく出来映えだと、自画自賛しています。 物理特性においては、測り間違えかなと思うくらいに低い残留ノイズが特徴的です。 そして、何よりもデスクトップに置いて邪魔にならない大きさが気に入ってます。

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