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「ほら、海の音がする」と、土地なまりでないきれいなアクセントで若い母親が子供に言いつつ、歩いていく。アーチ形にほの暗く雑木が重なり、木々を透かしてみればかすかに青い色が陽を照り返している岬の突端。さびしい土産物店が石の歩道に面して、数軒並ぶ。それは昔のままだが、11月にしては汗ばむ陽気に、観光客が買い求めるのは氷菓だけか。100年を越える歴史をもつ古い灯台が、その先にあった。灯台を背に幼いわたしが立ち、そのそばに父がしゃがんでいる1枚の写真。その原景をさがしにわたしはやって来た。白く続く灯台の塀が四角く切り取られて、突然あらわれる真っ青な海。そこから眩暈のしそうな向こう側の世界に、のぞけるような予感がして。灯台の門の外、入場券を売っている小さな建物が見える。なぜか土色の浜木綿の球根が、並べて売られている。
 










                                    (2002年8月)





 
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