消防よもやま話パート1

 ここに書かれていることは、今まで消防士として経験した事柄です。大方真実ですが、多少脚色してあります、特定の個人を対象としたものではありません、軽く読み飛ばしてくださいね。

生まれた〜

 救急車に乗っていたのはもう15年以上前になるが、車内

で産まれたケースに出くわしたのは1件だけ、あの時のことは実に鮮明に覚えている。
 雪がたくさん積もった2月のある日、○○町の A さん,陣痛が始まったので病院へ連れていこうとして家を出たものの停滞で立ち往生、そうこうしているうちに破水し今にも生まれそうな状況となり、ご主人が慌てて119番してきたものである。
 当方至って落ち着いて
「そんな簡単にはうまれへんわ 」とたかをくくって出動、念のため救急テキストを開き分娩の項を復習、「臍帯クリップ云々、なるほどなるほど…」ここまでは余裕があったが、現場に着いてもう頭が見えていると聞きパニック寸前、何とか車内に収容すると「分隊長生まれました!」の声、どっちや〜(なんで、こんな質問をしたのやろと今でも思う)女の子です!「早く病院に行け」と機関員(運転手)をせき立てる。しかし、雪道でスピードが出せない、生まれた赤ん坊はというとまだ、産声を上げないその時、救急車がさらに大きく揺れたため赤ん坊が床に落ちたotosita……… 「オギャーと大きな声」 映画やったらここで拍手々となるやけどそんな余裕をはない、よく滑る丸々とした赤ん坊をようやくキャッチして母親に抱かせる。「おい○原診療所に寄って何とかしてもらお!」途中の診療所に寄ることにする。連絡がついていたと見え2人の看護婦さんが大きく手を振って飛び出してきた、助かった白衣の天使やと思ったがあかんで〜うちの診療所では診られへんて先生が言うてはる、そのままN病院に行って〜 頼むわ〜 お願い! あんたらには血も涙もないのか、泣く泣く、雪道30分‥N 病院に着いたとき赤ん坊はよう寝とったなあ。


岡○クンあの時はごめん

 
 昭和○○年4月、奥伊吹スキー場手前の谷底に車が転落しているとの知らせがあり、出動しました。険しい山道をものともせず、飛ばしに飛ばして現場へ、「お〜っあそこや」、50メートルはある谷底の残雪に半分埋まった状態で黒っぽい色の乗用車が見えます。
 「よーし行くぞ」と声を掛けてロープを繰り出し急な斜面を降下していきました。少し離れた地点から警察も同じように接近していきます、負けるものかとさらにスピードを上げました。
 事故車にとりつき中の男性に声を掛けました、「大丈夫か、直ぐ助けるぞ」男性はピクリともしません、いや〜な予感がしましたが、手袋をとり首の当たりに手を当て脈を探りました。すると世の中に、こんなにも冷たいものが有ったのかと思うほどの氷のような冷たさ、覗くと顔は腐乱してどす黒く、倍くらいに膨れ上がり目も鼻も解りません、口元からは妙に白い歯だけがのぞいています。ぞ〜っ 私は、思わず声を上げそうになりました。
 そのとき、顔見知りの米○警察署員 岡○君が「どないでっか〜息はしてますか」と近寄ってきました。私は、口から出そうになった悲鳴をかみ殺し、「そうやなあ、もうちょっとわからへん、いっぺん、あんたも見たってか……」 後ずさりに車から離れました。職務遂行に燃える岡○君は、「お〜い、大丈夫か」 と一声かけて力強く肩口を手前に引きました。 「あ〜っ、ひぇーっ」 300メートル四方に聞こえる雄叫びが上がり、付近の鳥が一斉に飛び立ちました。
 ここからは、想像にお任せします。私は、素早く合掌して 「警察の仕事やな、仏さんを頼むで」 と言い残し、パワー全開で駆け戻りました、あ〜怖かった。
 後に車の人は、前年11月遺書を残して失そう、捜索願いが出されていたとのことです。どうも自ら谷底に飛び込んだようで、雪解けにより5ヶ月後発見されたのでした。私は、しばらくの間、岡○君の冷たい視線に耐えなければなりませんでした。

岡○君あの時は、ゴメン、悪気はほんの少ししかなかったんやで。

おばちゃんの質問

 いろいろな講習会に出向きます、救命講習・自治会の消火器取扱など々、この種の集まりでは動員され、仕方なく参加している人も多く、少し話にあきてくるとオバちゃん(妙齢のご婦人)からテポドンように突然質問が飛んできます。
救命講習(人工呼吸)では、
「あの〜家で練習するときはどんなふうににすればいいですか?」 来た来た、ほんまに練習するんかいなと思いつつ、は〜いぜひお願いします。「旦那さんを相手にするときは、まず口紅をひいて口と口を合わせ、フウフウ・ハアハア・ホニャララです、 でも決して、充分な生命保険を掛けずに、心臓マッサージはしないでくださいね。ワッハハ」 とでもさばきますが、若い職員はオバはんの術策にはまり、説明すればするほど質問を浴びせられシドロモドロになっていきます。  おいおい、馬鹿正直に相手してたらアカンデ〜。
 つぎに、一寸意地悪な質問、
「あの〜消防署って、火事の無いとき何をしているんですか〜」  この種の質問が実に難しいのです、相手に若干の悪意が感じられるときはなおさらです。まず、にこやかに質問者を見て、「大工さんと一緒です、家を建てるためには、材料を集めたり、刻んだりして準備(訓練)が必要です。ですから… 」 と答えるのが無難ですが、シャレが分かりそうだと思ったらすかさず 「火事の無いときは、ひたすら皆さんのお宅が火事にならないように神に祈っています。はい!」 と答えて、質問を空中で打ち落とします(私は)。
 このタイミングが実に難しいのです、タイミングを外すと、
「おちょくっとるのか〜」とキツイ突っ込みがあり、さらに高等なボケをかます必要に迫られてしまうのです。
                                       私は、漫才師?
 

もう、鳴った

今でこそ標準装備になっている空気呼吸器は、25年前にはとても貴重で高価な代物でした。私の署には2セットしかなく、専用の箱に入って後生大事にされており、うっかり傷でも着けようものなら、「いくらすると思っとるや〜」の怒声が飛んできました。
 この呼吸器は150kに圧縮した空気
(普通の空気です)をボンベに充填しこれを吸います、普通の人で1分間に約50リットル位消費しますから、150×6.0(ボンベの容積)÷50で約18分間使用出来ることになりますが、残圧30kになると警報ベルがうるさく鳴り、早く帰ってボンベを交換するように促します。ベルが鳴ると何が何でも脱出しなければなりませんから活動時間は実質10分位なのです。
 ある火災での出来事、「お〜い家の中を
検索(さがすことを消防ではこう言います)するから、呼吸器を着けてこ〜い。」との命令に ●○消防士は、かなり離れた所で呼吸器を着装し、全力で現場に駆けつけました、ところがあまりに急いで走ったため、空気の消費が多く家の中に入る前に、早く帰れベルが鳴り出しました。「なんや〜もうベルが鳴っとるで、何しとるやボンベ交換してこい」との冷たい命令です。
 
●○が空気が無くなって多少軽くなったボンベを交換をして、もう一度現場に戻る頃には火災はすっかり治まり、関係者が談笑していました。「お〜いお前、どこに行ってたんや、肝心なときまにあわんやっちゃなあ〜」との嘲笑、●○はグッと返答に詰まり、「はい、呼吸器のボンベがあんまり重いので少し軽くしていました」とようやく答えました。
 それからというもの、
●○消防士は呼吸器と人参とセロリをにがてとするようになりました。  お〜い、人参とセロリは関係ないやろ‥‥‥

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