☆ジェントルマン専用

2014.9.7

 これらのマスタッシュカップは迷いなく手に入れたものだ。特に、ひねりデザインのカップ&ソーサーは初期のオールドノリタケ特有の生地と図柄で、このように美しく100年以上を生き延びてくれたことが何よりもうれしい。おそらく実用ではなく装飾品として扱われていたのだろう。

 19世紀中頃から20世紀初めにかけて作られ、ヨーロッパの紳士方に好評だったというカップがあって、マスタッシュカップと呼ばれている。その名の通り口髭を蓄えた男性専用で、整えた髭を気にせず紅茶が楽しめるように、カップの内側に髭置き用のブリッジが渡してある。

 オールドノリタケにも当然のようにこのカップはあって、初めて手に取って見たときには思わず笑ってしまった。自慢の髭をそのブリッジ上に休めてお茶しているジェントルマンの姿を想像しただけで、微笑ましく愉快ではないか。

 紳士用のせいか、たいていは普通より大振りなカップで、図柄も形もキュンとくるような可愛いさや繊細さのあるものは少ない。それに、作られた期間が短く数も少ないので、状態もいいものとなればめったにお目にかかれない。

 だからマスタッシュカップが出たときは大注目なのである。迷いなく飛び付きたいと思う品は本当にめったにないが、そうは言ってもこれを逃したら今度はいつになるだろう、などと考えるから悩ましいのである。