6C19Pお手軽CIRCLOTRON OTLアンプ バラック実験

私が参加しております手作りアンプの会の関西支部は、真空管OTLアンプの製作が盛んで、年に何回かOTL大会が開かれます。 OTL大会には、私のように出力トランスを使ったアンプで参加される方々もおられますが、ちょっと肩身が狭い思いをすることは否めません。 出力トランスの自作をしている私ですので、OTLアンプにはあまり興味が持てなかったのですが、色々とご参加の皆様のOTLアンプを 拝見しているとストーブみたいな大げさなOTLアンプばかりでは無く、特にラジオ技術誌のライターの池田氏の作品等は低電圧で作りやすい内容の もので、段々とOTLアンプが身近に感じられるようになりました。

昨年は、私のOTLアンプ処女作である6C19Pアンプ を製作し、なかなか良い結果を得ることが出来たと思います。 が、これはかなり熱を持つアンプですので、夏はちょっと使い辛いものがあります。 そこで2作目は低電圧化を行い、減った出力を半導体で補うというハイブリッドOTLを考えてみました。これも面白いアンプとなりましたが、 それほどの省エネアンプとは言えないものになってしまいました。

そこで次に、池田氏の低電圧・0バイアス駆動PP方式を参考にして、CIRCLOTRON版に挑戦したのが、このページでご紹介するバラック実験です。


 実験回路図

オペアンプの電源電圧を考慮し24Vを超えない範囲で、それでもせめて1Wくらいの出力がないと使い難い場面が多くなると考えて、前回の OTLアンプで上手くいったハイブリッドOTLを踏襲しました。出力管を低電圧で使用する場合は、バイアス電圧をプラス領域に設定しグリッド電流を 流して使う方法が非常に有効です。そのためには電力を供給できるドライブ段が必要となりますが、このドライブ段にも出力参加をしてもらおうというのが 本実験回路のミソです。そうすることで出力管の本数を減らし、省エネ、かつ出力をアップさせることが可能となります。しかし、あくまで真空管アンプの 範疇を保っておきたいですからドライブ段の出力参加は程々に抑えています。

ドライブ段のエミッタ抵抗値を変えることで、ドライブ段の出力参加の度合いを調整することが可能です。もっと小さな値にして出力管をお飾りに することも可能ですが、今回はあくまでも出力段のアシストというレベルに抑えています。

できるだけシンプルにしたかったのですが、CIRCLOTRONは出力段用のフローティング電源が必要となりますので、池田氏の低電圧・0バイアス駆動PP方式 ほどは簡単にはなりませんでした。 しかし、平衡出力という特徴のおかげで、電源入り切り時のノイズが殆ど生じないようですので、 ミューティング回路等は必要無さそうです。対グランドで見るとショックノイズが出ているのですが、出力端子に対してコモンモードとなり、 スピーカーからはほとんど聴こえてきません。また、深いDC帰還のおかげで出力端子には直流電圧はほとんど生じませんのでスピーカー直結で 大丈夫だと思います。

 測定データ

以下に測定したデータのグラフをご紹介します。

OTLだけあって、非常に広帯域です。まぁ、当たり前と言えば当たり前ですが...

実験バラックですのでノイズの影響が大きく、カーブが少々いびつですが、歪率は充分に低いです。100Hzよりも1kHz、 1kHzよりも10kHzと歪率が悪くなっていきますが、これはオペアンプを使うかぎり仕方の無いことです。

ドライブ段の出力参加の様子を見るために、パラレルPPの状態と出力管を一本づつ抜いた状態、全て抜いた状態で歪率を 測定しました。THDが約1%の時に最大出力とすると、だいたいドライブ段だけ0.15W、シングルPPで0.45W、パラレルPPで1.2Wと なりました。

出力インピーダンスは非常に低く、1kHz、8Ω負荷に対するダンピングファクター(DF)は何と1000を超えています。

実験機の出力は負荷抵抗約34Ωで最大となりました。8Ω負荷というのはやや苦しいですが、これは真空管OTLアンプ全般に言えることでしょう。 ドライブ段の出力参加の割合を大きくすれば、最大出力は増えて、その時の負荷抵抗は少し低くなります。(山の頂点が高くなって左に寄ります。)

次に商用電源の電圧変動が出力端に与える影響を調べてみました。

プログラマブル電源を用いて、上の図のように10秒毎に100V→110V→100V→90V→100Vと変化するという循環シーケンスを組み、 出力端をオシロスコープで観察しました。電圧の変わり目は傾斜を持たせていませんので、負荷直結のOTLアンプとしてはかなり厳しい条件です。 なお、電源の周波数は60Hz、負荷に8Ωの純抵抗を接続し、無信号状態で観察しました。

上のオシロ画面のように、約600mVp−pの低い周波数のノイズが出ていますが、接続されたスピーカーを壊すようなDCは出ていません。 オペアンプへの深いDC帰還によって問題の無いレベルに制御されているようです。100V→110V、90V→100Vに変わる瞬間には マイナス側に、110V→100V、100V→90Vに変わる瞬間にはプラス側にノイズが発生しています。

2枚目のオシロ画面は時間軸を伸ばして、2秒/グリッドにして同じ波形を観察しています。最初のプラス側のノイズは100V→90Vの変化、 2つめは90V→100Vです。

 総括

特性的には非常に高性能なアンプとなりました。ドライブ段を少し変更すればドライブ段の出力参加を止める事も可能ですので、 出力が減ったとしても出力段は100%真空管じゃないと、と思われる方はそういった応用も検討してみてください。 初段(位相反転段)は、 見た目通りの付け足しです。本当は2つのオペアンプだけで位相反転もしたかったのですが、阿呆な私のオツムでは思い付きませんでした。 こんなやり方があるよ!とアドバイス頂けましたら非常に有難いです。とりあえずACアダプターを電源とした アンプで、次回のOTL大会に参加する予定です。

以下、上の取り消し線の部分について気が付いたことを少し。

当初はドライブ段の電源を、出力段のフローティング電源からオペアンプと共通の電源へと変更をしてやれば実現できると思ったのですが、 オペアンプ用のプラスマイナス電源に対して出力段の電源はその名の通り浮いた状態ですので、ちょっと難しそうです。 グリッド電圧をプラス側へ振るためにはドライブ段から出力管を駆動する際にグリッド電流を流し込んでやる必要があるのですが、 電流の帰路として出力端の中点をグランドに落とす為に設けた抵抗を通じてしか戻ることができません。 グリッド電流は出力管一本当たり数十mAのオーダーになりますので1kΩでは流しきれず、もっと小さな値にしなければならないのですが、 この抵抗は負荷にパラに入っていますので、小さくするとアンプにとって負荷が重たくなってしまうため、あまり小さく出来ないのです。 ということで、ドライブ段の出力参加を好まない人は、この点に留意してご検討ください。

2011.03.26 ARITO@伊吹南麓

2011.03.28 出力管を抜いた歪率測定データを追加

2011.04.05 AC電圧変動が出力端へ与える影響のデータを追加

2011.04.15 ドライブ段の出力参加を止める方法について気が付いたことを追加

2011.04.25 GWの関西OTL大会用の紹介文へのリンクを追加