E182CCウィリアムソン型ミニアンプ

世の中にウィリアムソンアンプと呼ばれるアンプがあります。真空管アンプを何台か製作したことがある人にとっては、恐らく一度は聞いたことがある名前のアンプだと思います。私も浅野勇氏の「魅惑の真空管アンプ」読者でしたから、名前だけは昔から知っていましたが、正直言ってあまり興味はありませんでした。位相反転も含めて4段という多段構成と深〜いNFBという両立が難しそうなアンプが、どうにも合理的に思えなかったからです。私は通常の真空管2段構成ではゲインが足らない場面には、半導体回路を持ち出すという奥の手を使ってでも2段構成にしてしまう方でしたから。

私がウィリアムソンアンプに興味を持ったのは、最近私が出没しているUMETECHさんのBBSでウィリアムソンアンプの話題で持ちきりだったからです。最初は全く外野から見ているだけのつもりだったのですが、ふとした時に私が2段構成にこだわっていることが、見方を変えれば、両立が難しい多段構成と深いNFBという組合せを回避する考えに思えたからです。私は今でも2段構成の合理性を否定するつもりはありませんが、一方で一世を風靡した方式の理解と難しい題材への挑戦の気持ちが湧いてきたというわけです。

ウィリアムソンアンプに挑戦をするためには、ウィリアムソンアンプって何ぞやということをまず理解する必要があります。ところが、実はこれはかなりの難題です。ウィリアムソンアンプというのは英国のD.T.N.ウィリアムソンという人が1949年にワイヤレスワールドという雑誌に発表した言わば試作アンプです。技術的な解説はかなり丁寧にされていますが、なにぶん出力トランスは筆者自身が自作したという代物ですから、コピーしようと思っても簡単に出来るものではありません。もしかすると完全なコピーを作れた人なんていなかったかもしれません。言い換えるとオリジナルアンプまたはそれに限りなく近い音を聴いた人なんてほとんどいなかったんじゃないかと思います。しかしながら、当時としては画期的な広帯域、低歪みのこのアンプが、海を越えた日本のオーディオアンプをウィリアムソン式一色に染め上げてしまったということですから、よっぽどセンセーショナルだったことに間違いないでしょう。

ウィリアムソンアンプの定義がはっきりしないままではありますが、基本的な回路構成を逸脱しないことと20dBのNFBを掛けることを第一に考えました。それと最近ミニアンプを作っていないので、久しぶりにミニアンプに仕上げることにしました。こうなるとウィリアムソンアンプとは呼べないと言われると思いますので、ウィリアムソンアンプと呼ぶことにします。

 回路図

アンプ部の回路図を下に示します。本機は最初からミニアンプに仕上げるつもりでしたから、球を何にするかで悩みました。シャーシは使いなれたタカチのCH16−22−14BB、電源トランスは以前に購入して出番を待っているものを使うつもりだったので、スペース的な制約が大きかったからです。何せオリジナルのウィリアムソンアンプは球をモノラルで6本も使っていますので、だいぶ事情が違います。結局は全部複合管でE182CC+12AU7(6189W)×2で構成することにしました。

アンプ回路は、ほぼオリジナル通りにするつもりでしたので、出力管が決まると後は定数を決めるだけです。出力段の動作点は、掲示板をご覧になっていたAyumiさんのアドバイス通りにしました。何とも贅沢なオーダーメイドみたいなものです。詳しくはAyumiさんのホームページにあります。 Ayumiさん、その節はどうも有難うございました。この場を借りてお礼申し上げます。

 はらわた

本機はオリジナル回路と同様に20dBのNFBを掛けることが目標でした。実際にやってみると、トランスを挟んで20dBに及ぶNFBを安定に掛ける事が如何に難しいことか、ということが痛感できます。これはトランスの素性に依存する部分が殆どです。今回選んだS−2131というトランスは、あまり高帰還は向いていないようで、位相補償無しでも発振には至らないものの、低域と高域のピークと、容量負荷による安定度が取れませんでしたので、低域はスタガー比を大きくすることと、高域は位相補償を施しました。この位相補償についてですが、オリジナル回路どおりに初段の負荷に積分回路を入れると、音が良くないとのアドバイスをBBS上で頂きましたので、帰還抵抗への微分補償を軽く施すことで留めました。この程度だと高域のピークはどうしても残りますが、聴感上の問題は特に感じませんでしたのでこれで最終としました。

 部品点数の多いウィリアムソン型がコンパクトに!

アンプ部の実装はかなり悩みました。ウィリアムソンアンプは4段構成で部品点数が多く、複合管を使用したのとミニアンプのため実装面積が取れないので部品が収まらないのです。結局、基板型のソケットを使用して基板を2階建てにするというかなりアクロバティックなことをしていますが、結果は大変良いものでした。ショートリングはあるものの、ハムプルーフベルトを装備していない電源トランスのすぐ隣に実装せざるを得なかったにもしたにも関わらず、ノイズは許容できるレベルにおさまりました。当然のことですが、小さく実装することは回路ループも小さくなりますからノイズにも強くなります。今後も機会があったら是非使ってみたい手法です。

電源回路は寸法的な制約もあって、オリジナル回路とは違ってダイオードブリッジとトランジスタリップルフィルタを使っています。トランジスタの損失に配慮して素子を2個使って左右に振り分けました。この部分で6W以上の発熱がありますから電源回路は全てシャーシの上に実装し、丸裸では危険なので樹脂のシートで絶縁しています。電源回路をシャーシ内部に置かないことで、ミニアンプの割には夏でも熱的に気にならない?アンプに仕上がりました。ウィリアムソンアンプは電源がヒーターを除いて一つしかありませんから部品点数の多いアンプ回路に比べて電源回路は製作が楽です。(と言うよりも、拙作の他のアンプが、必要な電源が多すぎるのかも?)

 背面

電源トランスはウェルカムオリジナルのSEL製T−4027というトランスを使っていますが、これは実はバンド型のトランスです。そのままではシャーシへの実装がやりにくいので、ジャンクトランスに付いていた金具を使って、塗装を施して伏型トランスに変身させています。もし、このアンプをコピーしたい方が居られるならば、少しばかり図体は大きくなりますが、ISOのGS−165等をお使いになると良いのではないかと思います。

 測定データ

NFBを掛ける前の測定データです。

ダンピングファクタ Lch 2.09(1V → 1.478V)
(8Ω負荷、1kHz、1V) Rch 2.06(1V → 1.486V)
利得(at 1kHz) Lch 35.39dB
  Rch 35.71dB
残留ノイズ Lch 731.6μV(10〜300KHz)
(8Ω負荷、VR最小)   108.1μV(IEC−A)
  Rch 833.4μV(10〜300KHz)
    197.6μV(IEC−A)

歪率特性(無帰還)

NFBを掛けた後の測定データです。

周波数特性 Lch(−3dB) 2.8Hz
(1V、8Ω負荷、1kHz基準)    (−3dB) 201.5kHz
  Rch(−3dB) 2.6Hz
     (−3dB) 212.6kHz
最低雑音歪率 Lch(100Hz) 0.0296%(0.03W)
(8Ω負荷、10−300kHz)    (1kHz) 0.0289%(0.05W)
     (10kHz) 0.0289%(0.03W)
  Rch(100Hz) 0.0172%(0.07W)
     (1kHz) 0.0170%(0.07W)
     (10kHz) 0.0175%(0.07W)
ダンピングファクタ Lch

18.52(1V → 1.054V)

(8Ω負荷、1kHz、1V) Rch 18.52(1V → 1.054V)
仕上り利得 Lch 16.10dB(NFB=19.29dB)
  Rch 16.10dB(NFB=19.61dB)
クロストーク Lch → Rch −84.78dB
(at 20kHz) Rch → Lch −79.36dB
残留ノイズ Lch 117.4μV(10〜300KHz)
(8Ω負荷、VR最小)   10.59μV(IEC−A)
  Rch 108.3μV(10〜300KHz)
    16.25μV(IEC−A)
消費電力 無信号時 45.0W(100V、0.494A)
  2.5W+2.5W出力時 46.0W(100V、0.463A)

周波数特性比較

歪率特性(NFB有)

クロストーク特性

 総括

半信半疑で作ってみた古典アンプですが、物理的な特性も聴感上の評価も大変良いものでした。正直言ってまさに温故知新という言葉がぴったりです。ミニアンプに仕上げた為にトランスのリーケージフラックスの影響を受けて、歪率は0.01%を切る事が出来ませんでしたが、バラックでの試作では0.0075%を記録するなど真空管アンプとしては素晴らしい物理特性が出ています。こんなアンプが50年以上も前に登場したわけですから、当時のアンプビルダーの注目を集めたのも頷けます。

このアンプの物理特性の良さは深いNFBのおかげですが、前述の通り、これほど深いNFBを安定に掛けるという事は簡単なことではありません。今回は20dBにも及ぶNFBですから 容量負荷に対する発振安定性を検証してみました。 安定度ばっかり追求すると面白くない音になっちゃいますから落としどころは難しいですね〜、やっぱり。

ウィリアムソン型アンプの決め手は出力トランスに尽きると言っても過言では無いでしょう。今回はミニアンプに仕上げたかったので、必ずしもウィリアムソンアンプに適するとは言えない物を使いましたが、やはり少々無理があったようです。ミニアンプに仕上げるという訳には行きませんが、TANGOならばFE25−8がウィリアムソンアンプに使用してよい結果が出ているようです。コアボリュームも本機で使用した出力トランスよりも大きいですし、価格も殆ど変わらないのでそちらのほうが良いと思います。その場合は本機の定数ではなく、FE25−8を使用した製作例を参照してください。

もし、本機をコピーしようという方がおられましたら、設計者の意図を汲んで完全コピーを試みてください。下手に出力トランスや回路定数をいじると、えらいことになるかもしれませんよ〜!

TUBE AMPLIFIERSのページに戻る