6C19P パラレルSEPP DCアンプ(回路試作編)

 測定中のDCアンプ

 

6C19Pを使ったパラレルSEPP DCアンプの製作に先立って行ったバラックでの試作の測定結果をご紹介します。回路試作をしたのは、私にとって真空管SEPP回路が全く初めてだったことと、ほとんどの回路を蛇の目基板の上で構成することにしたので、本製作の前に回路や定数を決めておきたかったからです。基板を使ってアンプを組んだ後で回路追加や定数変更は不細工になりますし、めんどくさいですから。

 回路図

下図が試作回路です。(定数の入っていない位相補償素子は実装していません。)


真空管SEPPアンプにおいて最大出力は、出力管のゼロバイアス時のプレート内部抵抗と負荷抵抗との分圧比でほぼ一義的に決まります。ざっと見当をつけてみましょう。仮に電源電圧が±125Vで、6C19Pの内部抵抗を300Ωだとするとパラレルで150Ωですから、[{125*128/(128+150)}/√2]^2/128=12.94Wとなります。私にとっては充分すぎるほどの出力です。

 測定結果


まずは周波数特性です。オープンループゲイン(裸特性)はちょっとずぼらして帰還回路の5.6kオームの抵抗を外して測定しました。従って1μFのコンデンサがあるために低域でゲインが落ちていますが、実際はフラットなはずです。また、極々僅かながらNFBが掛かっている事になりますが誤差範囲とみなせると思います。初段を真空管からFETの差動回路に変更したのでオープンループゲインが57.7dB(at1kHz)とかなり高くなりました。負荷はMT−128を使わず128オームの純抵抗を使用しています。(以降の測定は全て純抵抗負荷です。)NFBを掛けた後でも31.3dBのゲイン(NFB=26.4dB)とかなり高いですが、これは1Vくらいの入力信号で128Ωの負荷に対して最大出力が出るように設定した為です。本番のアンプではマッチングトランスを通すので相応にゲインは下がります。NFB有りの高域特性は100kHzで−0.2dBとなりましたが、これもマッチングトランスを通すとここまで良い結果は得られないでしょう。

 

 

マッチングトランス、MT−128を使用するのでアンプの定格負荷は128オームですが、いちおう負荷抵抗を変化させて最大出力をアイドリング電流を40mAにセットして測定してみました。83オーム以上ではTHD=1%の時を最大出力としていますが、それ以下の負荷抵抗ではクリップする前でも1%を越えてしまいましたので、目視によって同等のクリップ波形となったときをプロットしています。このグラフより、プレート内部抵抗と負荷抵抗の比で最大出力が決まることが分かります。負荷抵抗が50オーム以下だと最大出力時に6C19Pのプレート損失の最大定格(11W)を超えてしまい、最大出力も出力効率(最大出力÷消費電力、消費電力はヒーター電力を含めていません)もかなり下がります。なおプレート損失は最大出力時の消費電力から出力電力を引いて4で割っただけですから、実際の一本あたりのプレート損失は電圧増幅段の消費電力などを差し引かなくてはなりませんので、それよりもやや小さくなります。まあ単なる目安とお考え下さい。こうしてグラフにするとマッチングトランスの有難味がよく分かります。

 


次は歪率の測定結果です。先ほども書いた通り、真空管SEPPアンプでは負荷抵抗が小さいほど歪率は悪くなります。今回は負荷抵抗が決まっていますから、アイドリングを変化させて測定してみました。カッコ内はそれぞれのアイドリング電流における出力管のバイアス電圧です。想像どおりアイドリング電流が多いほど歪率が低くなる傾向があります。アイドリング電流が70mA、100mAのグラフで出力が小さいときの歪率が悪くなっていますが、これはアイドリング電流を増やしたことによって電源のリップル電圧が大きくなった為にノイズが増えた結果です。したがってリップル電圧が充分小さければ、40mAのグラフよりも歪率は低くなることと思います。40mAと70mAの差はかなり大きいですが、70mAの時でもまだAB級の領域です。100mAにするとA級動作になりますが、アイドリング時に6C19Pのプレート損失の最大定格をオーバーしてしまいますし、70mAの時と比べて歪率はそれほど差がありません。


アイドリング電流をどれくらいに設定するかという問題ですが、増やせば歪率は下がりノイズが増えるという現象があること、そして全体の発熱と電源トランスの容量から許される範囲を考えて設定しなければなりません。いずれにせよアイドリング電流はアンプを製作した上で最終的に決めることになりますので、今回の回路試作ではとりあえず40mAと仮に設定して周波数を変えて歪率を測定してみました。周波数が高くなると歪率が悪くなる傾向がありますが、オープンループゲインが落ちてくるので帰還量が減った結果だと思われます。

 

 

最後はボード線図です。裸ゲインがかなり高く、帰還量が26dBもありますから念のため測定してみました。測定条件は純抵抗128オーム負荷、アイドリング電流40mAです。発振器の上限である1MHzにおいても位相回転は180°に達しないという結果となりました。利得マージンは推定で10dB程度でしょう。位相マージンは45°強くらいですから、安定度もまあまあ取れているようです。

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