「印度 生死の月」に寄せて
 インド文化に魅せられて度々仏蹟巡拝をはたされた駒澤琛道氏が、その数多い撮影写真の精華を、ここに展示される。
 すばらしい写真の一つ一つが、われわれに深い感動を与え、豊かで玄妙なる生死の奥深さについて考えさせる。
元東方学院院長・東京大学名誉教授
文学博士 中 村 元(故人)




印度 生死の月
 サーンチーの丘にある半円形のストゥーパの中程で、夕陽を眺めていた。渦巻くような黄と橙色の太陽が、やがて燃え落ちるようにして地平線の彼方に沈み、闇を呼んだ。深い闇を砕いて輝いていた月が、黎明の時とともに薄らいで行く。この時に生死を観じ、永遠の生命をも観じるのである。
 幾世紀を超えてなお、多くの巡礼者たちは「釈尊」を敬慕して、その足跡を辿り、成道の地や説法の地、そして涅槃の地を訪れて、それぞれの五体に尊い声を聞き、その語りかけに感涙する。印度の一切合切の中に究極の対比があり、息詰まる程の衝撃を乗り超えて後、赴くところ全ての地に釈尊がおられることを実感する。
 三蔵法師玄奘の『大唐西域記』に「印度」とは「月」を意味するとある。
 満ちて欠ける月は『生死』にも似る。掴みどころのない心を月に観じ、求めようとして生滅して行く私たちを含む一切の衆生を釈尊は未来永劫、叡知と慈悲を持って見守り続けていて下さるのであろう。
 「印度 生死の月」果てしなく旅は続く。

 15年前、「佛姿写伝・近江 湖北妙音」の撮影行脚でご縁をいただいた高月町観音の里資料館に、「湖北妙音」と同様「印度 生死の月」の写真パネル全品を寄贈いたしました。信仰のまち「観音の里・高月」は、私にとってこころのふるさとでもあり、拙作を活用していただけることは望外の喜びであります。合掌
駒澤琛道




 駒澤琛道(こまざわ たんどう) プロフィール
 本名・晃 (あきら) 
 日本写真家協会会員
 日本写真芸術学会会員
 臨済宗建長寺派建長寺徒弟

<略歴>
 1940年、長野県戸隠村生まれ。
 66年二科展入選。
 67年フリー。
 68年日本写真家協会会員。
 76年文芸春秋特派員として一年間渡米。
 その後、仏教美術とホトケたちを守り続ける心に惹かれ、鎌倉や湖北地方(滋賀県)・インドなどの仏像・仏跡を精力的に取材。
 91年出家得度(臨済宗建長寺派建長寺徒弟)。
 東京・横浜・名古屋・大阪・広島・福岡・札幌等で個展多数。
 神奈川県横須賀市在住

<写真展>
 「市原悦子 その舞台模様」
 「悉有佛性 現代のこけし水子地蔵考」
 「法雨のごとく 大佛師松久朋琳・宗琳」
 「佛姿写伝 鎌倉」、「佛姿写伝 鎌倉/妙道」
 「佛姿写伝 近江/湖北妙音」
 「見聞撮知録 縁あって文藝春秋」など

<出版物>
 写真集「佛姿写伝 鎌倉」(神奈川新聞社)
 写真集「佛姿写伝 続鎌倉」(神奈川新聞社)
 写真集「佛姿写伝 近江/湖北妙音」(日本教文社)
 写真集「風車まわれ 水子地蔵に祈る」(春秋社)
 写真集「石川雲蝶 永林寺の刻蹟」(大阪書籍)
 写真集「一佛一会 大佛師松久朋琳の世界」(日本教文社)
 写真集「大佛師松久朋琳・宗琳 人と作品」(春秋社)
 写真集「市原悦子 現と遊び」(大阪書籍)
 写真集「市原悦子 変化自在」(春秋社)
 写真集「印度 生死の月」(春秋社)
 写真・エッセー集「鎌倉の心」(神奈川新聞社)
 写真・エッセー集「続鎌倉のこころ」(神奈川新聞社)
 写真・エッセイ集「湖北 佛めぐり」「鎌倉 佛めぐり」(京都書院)
 エッセイ集「ぼさつになった妙空 ゴールデン・リトリーヴァーの一生」(春秋社)
 エッセー集「一隅を照らす玲瓏の人々」(日本教文社)
 対談集「瓦にいきる 鬼瓦師・小林平一の世界」(春秋社)
 季刊「一佛一会」通信発行など



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