匂いが好き 闇はなにも見せないけれど むせかえるほどの 木々の呼吸に ふかぶかと満ちていて 匂いだけでなく 声もする 逝ってしまった人たちがもどってきて くすくすと しきりに笑い さざめいている 樹木の根は 託された声を溜めているところ 幹はのぼってくる樹液を静かにたぎらせ 夜をかけて 新しい息吹を用意する そっと耳を澄ますと ほら 緑の伸び上がるかすかな音が きこえてくる (2005年5月)