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  新しい年に

               

2015年1月1日
一瞬にして
その前夜までのたよりのすべてが
消えた
電子データというものの
ほんのわずかな誤動作にさえ忠実に反応してしまう
もろさ はかなさ 

亡くなって久しいあのひと
尽きない話題を交わした親しいあのひと
音信不通で暮れにようやく届いたなつかしいあのひとの
たよりがもうどこにも残っていない

引っ越しのたびに
手紙の束を捨ててきた
手紙に込められたそのひとの時間
わたしの時間
時間にびっしりつまった
そのひとの思い
わたしの思い
全部覚えていると自分に言い訳をしながら

母が死んだとき
母の記憶だけが残った
父が死んだとき
父の記憶だけが残った
わたしもまた
誰かの記憶のなかに
かすり傷のように残るだろうか

コンピューターのおかげで
今年は空白からの出発
メールを届けてくれた友に心からごめんなさいを言う
でもわたしは
どこか軽くなり 
真っさらな紙の上を歩き始めている








                                                                      (2015年1月)

 
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