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  玉手箱



にじゅうごねんまえ
そのひとは古い寺の池の柵にもたれて
亀が好きかとわたしにたずねた
(ぼくが好きかと問うかわりに)

にじゅうごねんまえ
そのひとは木陰で鳴く蝉をつかまえて
わたしの肩に止まらせようとした
(肩に触れるかわりに)

わたしは弾かれたように何か言おうとして
ただ まぶしそうに目を上げただけだった

蝉は肩に止まることなく
飛び去っていった






















                                                        (2002年7月)

 
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