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南紀通信3 珊瑚
いちめんに
雪が舞っている
あとから あとから湧きだして
うみぞこを埋め尽くしてゆく
6月の満月の夜
わたしは夢をみている
ゆめの底に
かすかな痛みが走り
珊瑚たちが
石灰質の肌から
ひとつ またひとつ
真珠粒のような卵を
体外に放つのだ
白や桃色やみどり色
それぞれの色を匂わせ
一夜きりでおしまいの
はげしく ひそやかな
いのちの乱舞
珊瑚礁 北限の地
錆浦(さびうら)
その手のひらに抱かれて寝て
卵のゆくえを おもっている
(1990年10月)
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