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  南紀通信1 ぬくぬく



たいていは
焼き芋や
たい焼きであったりする
てんぷらや
まれには祭りの日の鰻重のこともある
でき立ての熱いのを
両手に包むようにして届けにきた人は
弾んだ口調で言うのだ
「ぬくぬくやで」
もらった人も思わず顔をほころばせて
胸に抱える
「ねくぬくやね」

昔からくり返されてきたやりとり
あつあつとは少しニュアンスの違う言葉
ぬくもりを分け合うとき
人は自然と笑顔になる
新聞紙にさりげなく包んだ
信じられない量の札束を抱え込んで
ひとりぬくぬくしている
くさった人間の神経とは異質の
あたため合わなければ生きてゆけない
人のさびしさに
それはつながっているらしかった














                                                     (1990年4月)
 
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