風になって
未明 布団にぬくもりを残したまま
それっきり姿を消したフースケは
風介
勝手に去勢手術をしたのだから
せめて その生涯に責任をもってなどと
ヒトらしい理屈をつけて
捨て猫が
わがふところにおさまったと・・・
五月のしめった夜
暗い空に腕を伸ばして
いちめんに青くさい匂いを放っていた
オリーブの木は 去年
軽トラックの荷台からはみ出して
新しい土地へと運ばれて行った
小さな庭を黄色に染めた
背丈ほどのエニシダは
この春 気がつくと
その太い根もとまで軽くなっていて
枯死
とりあえず ここで
水や光や魚や肉を摂り入れて
生きてゆくしかないもの達は
たとえば わたしだって
足裏あたりに白い毛根がはえていて
だから立っていられると
本気で思っている
もうどこにも行きようがないけれど
ここにも いられない
フースケは
首輪のように巻きついてくる
根っこ幻想を咬み切って
風になって駆けていったか
(1998年3月)
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