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  使者



左手に花ばさみ
右腕に1歳になる孫を抱えて
息せききって駆けてきた

列車の時刻が迫っている私に
どうしても
白木蓮の一枝を託そうと

狭い庭の梢に
今年は花数がとぼしく
開くさきから 風に散らされていくのだ
残りわずかのつぼみを
今のうちに

遠い街の病院にいる母の部屋にと
手渡された花は
鳥の胸のようにふっくらとして 重たい

列車に揺られながら私は
30年以上も昔に母の腹から流れていった
弟か妹を思い出した
つねにいさかい合いながら
父の若さは
わが子のいのちまではげしく打擲したという

早く帰ってほしい 父と
帰ってもまた同じ繰り返しだと苦笑する 母と

はるばる届けにゆく私の紙包みをほどいて
象牙色の鳥が一羽
翔び立っていった







                                                        (2001年11月)

 
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