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  花火




さまよっている手に
手をさし出したら
よりすがろうとするのだ

まもなく花火がはじまる
暗い公園の芝生のうえ
何十年も見慣れた場所なのに
夜が父の全身を
不安のかたちにしている

生まれて初めて
腕をとって歩く
歩くこともおぼつかないわたしが
ようやく 父の娘になって

このあいだまで
車いすの母を抱きかかえ
着替えさせ 食事をさせていた その手が
そういえば
始終つかまるところを探している

花火が上がる
ふたり肩を並べて
明るさの方を見ている












                                     
(2002年8月)
 
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