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  リウマチとともに


クルマ(2)

               


 左膝の手術を終えてから、車の運転免許を取ることに決めた。今から、10年ほど前のことである。
 それまで長くバイクに乗ってきたが、転倒の不安があるし、杖も積みにくい。将来のことを考えたらこの機会に車に替えた方がいいと、勤務先の社長が熱心にアドバイスをしてくれた。幸いオートマチック車の教習課程がスタートする時期だった。適性検査でAT車のみという条件を付けられ、その第一期生として自動車学校に通うことになった。
 仕事は午前中休ませてもらえて好条件だったが、やはり苦労したのは身体のハンディによるものだった。(学科はまじめに覚えれば、人並みにできた。)
「ハンドルを大きく切れ」と言われても、肩関節の可動域が小さいので手ばかりバタバタする。右折や左折の際のハンドルの切り遅れがどうしてもあった。それに、首が悪いので後方確認ができないこと。身体ごとねじれば、今度はハンドルが切れない。かくしてバックが非常に苦手となった。
 私が苦労しているのを見かねて、夕方仕事が終わると社長が「どれ、練習してみよう」と自家用車で近くの空き地に連れ出してくれた。助手席に乗って黙って私の運転を見ているのだが、ここぞというときは手厳しいことこの上ない。バックの練習には繰り返しつき合ってもらうこととなった。後日、運転免許を取ってから、社長いわく「不自由だからできないんだ、という結論に陥らないようにいちばん気を遣った」。
 午前中の自動車学校と、夕方の個人教習。おかげで私は恥ずかしいほどの補習授業も受けず、何とか規定のコースを終了し、合格することができた。
 私が免許を取るに当たって助けられたのは、「身体障害者自動車操作訓練助成」の制度だった。当時は10万円を限度額として、たぶん満額補助が受けられたと記憶している。
 車の免許を取ったことで、私の行動範囲はうんと広がった。ただ、バックは今も目視でなく、ミラーだけに頼っている。だから、原則としてそれでいいという人しか乗せない。恐いならどうぞ乗らないでね、というところだ。幸い10年間乗って、まだ無事故でいる。

 
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