VOL4
「ツーリングレポート九州編 ’ 01」 最終話
日南海岸を鹿児島に向かって南下中、ちょっとしたテーマパークに寄った。
そのテーマパークは実物大のモアイ像が何体(何首?)も立ち並んでいた。
しかもモアイ像の前では青い瞳をした異人さんが悩殺衣裳でフラダンスを踊っていた。
僕はひじょ〜に興味があったのだが、どうも
I さんはそれほど異人さんにはそそられるものがないらしく、あまり観賞する時間を頂けなかった。
そのモアイ園では園内をゴーカート(2人乗り)に乗って回る事ができた。1時間千円也(安いかも?)
しかし所詮テーマパークのゴーカートである、思いっきりアクセルを踏み込んでも平地ではせいぜい15キロほどのスピードしか出なかった。
皆さんの周りにはいないだろうか? 普段はおとなしい人なのだが、
一旦車のハンドルを握ると「オラ!オラ!オラ!
チンタラ走ってんじゃねぇーよ!! 道ゆずらんかい!べらぼ〜め!!」などと変身する人を。
まさに I さんもそういった部類の人である。
平地ではスピードが出ないカートだが、やはり坂道ではそこそこスピードが出るものだから、
まさに伊藤さんは水を得た魚のごとくここぞとばかりノーブレーキで坂道を駆け下りる。
目の前にはきついヘアピンカーブが迫る。彼は力一杯ブレーキを踏み込んだ! が、
カートは止まらない、しかもタイヤはロックしてしまってキィ〜と悲鳴を上げている。(ちなみに僕も悲鳴を上げている。)
僕の脳裏に明日の三面記事の見出しがよぎる。
「哀れ関西人! カート横転! 人生終点!」
あわや横転&側壁に激突寸前で僕等の乗るカートはまるでアニメのルパン三世のように片輪走行したのち無事生還することができた。
「びびった? びびった? こけると思った? はっはっは!!」と
I さんは強気の発言をしていたが、
彼のハンドルを握る手が小刻みに震えていたのを僕ははっきりと覚えている。
結局フラダンスの姉ちゃんとは何もないまま、僕達はそのモアイ園を後にし、九州の南端にある半島を目指した。
この半島には野生の馬や猿が生息しているため、岬の灯台に続く道は彼等(?)を保護するという名目で有料化されていた。
たしかにそこらじゅうに馬や猿がうろうろしていた。しかも彼等(?)は人間慣れしているのでタチが悪い。
車から餌を与えているところへ猛ダッシュするものだから、バイクで走る僕の前を平気で横切るのだ。
僕は彼等(?)に忠告してやった。「やい!
猿! 僕は運転テクニックが優れているからいいものを、
ヘタッピの I さんの前を横切ったりしたら確実にミンチになるぞ!」
岬の灯台からの帰り道、見通しの悪い左コーナーを曲がったその時である、目の前に大きな黒い影が立ちふさがっているではないか!
僕はとっさにハンドルを大きく右に切りなんとか避けることができた。
バックミラーで確認するとなんとそこには4頭もの馬が左車線一杯に広がって雑談をしてやがった。
僕は後ろを走る伊藤さんに祈った。「頼む!
伊藤さんうまく避けてくれ!! こっちは鉄馬だけど、向こうは4頭だ!
勝ち目はないぞ!!」
僕の脳裏に明日の三面記事の見出しがよぎる。
「哀れ兵庫県の人! 鉄馬で本物に突っ込み撃沈!」
そんなことも知らずに気分上々で伊藤さんはコーナーを立ち上がってきた、彼は目の前に現れた突然の事態にさぞ驚いたことだろう。
しかし I さんは冷静な判断でハンドルを右に切り紙一重であったがなんとか馬を回避した。
一年前の伊藤さんのテクニックなら間違いなく突っ込んでいただろう。
僕はバックミラー越しに彼のライダーとしてひとまわり大きく成長した姿を温かく見守っていた。
この旅の前日、 I さんは会社から「大入袋」を頂いたらしく、中身には諭吉さんが一名入っていたという。
伊藤さんはそのお金で日頃大変お世話になっている僕にご馳走すると言ってくれた。
海沿いにいるのだから勿論海鮮料理だろうということになって、僕達は店を求め海岸線を走った。
すると前方になんともゴージャスなホテルが建っているではないか。僕達は迷わずそのホテルの駐車場にバイクを乗り入れた。
しかしホテル側としては荷物満載の汚いバイク2台をあまり目立つ所に置いてほしくないのだろう、僕達のバイクはあまり人目につかない所に置かされた。
たしかに僕達は多少身なりが薄汚れていたし、多少お金を持ってなさそうに見えたかもしれない、
そんでもって多少放浪者に間違われることもないこともない、
そりゃあ多少ゴージャスなホテルにはそぐわない気がしなくもないこともないようなこともない。がっあんまりではないか?
しかもホテルのレストランの案内係は外が曇り空にもかかわらず「テラスが気持ち良いですよ!」などと言い誰もいないテラスに追い出そうとする。
さすがの伊藤さんもカチーンときたらしく、「座敷あかんのか!座敷!俺ら座敷がええねん!」と叫んだ。
案内係は少々びびりながら「どっどうぞ、どうぞ」と応えた。
僕達の前に料理が運ばれて来たとき、周りの客はざわめきはじめた。そりゃそうだろう、
テーブルには僕達にはあまりにも不釣り合いの料理が並べられていたからだ。
ご飯を覆い隠すようなウニ丼と鉄火丼、とても2人では食べきれないような立派な刺身の盛り合わせ、
磯の香り漂う海鮮汁。周りの客達には僕達が当たりの宝くじを拾ったヒッピーに見えていたに違いない。
周りの視線がこう語る。「マサヒロ、今度はいくら当たったんだい?」
夕食を終え、僕達は最後の力を振り絞って夕闇の中をフェリー乗り場へとバイクを走らせた。
「アクセル全開! KOU限界! I さん崩壊!!」
おわり
あとがき
先日一通の手紙が送られてきた。封筒の中には幻の温泉での写真が入っていた。あの時のおっさんが送ってきてくれたのだ。
手紙によると、あの温泉は僕等が訪れてから
数日後、硫化水素ガス濃度が高くなったため、立入禁止になったという。僕達はとてもラッキーだったようだ。
ちなみにおっさんにお礼の手紙を送ったら、今度はメールが送られてきて、今では51歳のおっさんとメル友として連絡を取り合っている。
今回の旅では天使との出逢いはなかったが、かなり年の離れたメル友ができたことは大きな収穫ではないだろうか。
このレポートが新しいライダー誕生の起爆剤になれば大変うれしいです。
さああなたも! 僕達と一緒に天使探しの旅に出かけましょう。
2001.6.8
Raider KOU
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