VOL2

「ツーリングレポート 九州編 ′01」 2


夕方、阿蘇山の麓にある温泉での出来事である。
僕はふと気づいたことがあったので、I さんに尋ねた。

「なぁ I さん、ちょっと肥ったんとちゃう?」

「そうか〜? 別に変わってないとおもうけどなぁ〜。」

風呂から上がり、
「だいたいそんなことあるわけないないやん! 月1回ぐらいテニスに行って体動かしてるし、
絶対気のせい!気のせい!はっはっはっは!」と笑いながら
彼は体重計に乗った。

「なんじゃこりゃ〜!!」彼の絶叫が響きわたる。

当分の間、減量生活が始まるそうである。
しかし、実際に1番ショックを受けたのは僕の方ではないだろうか。
 I さんの異変に彼女であるマリちゃんが気づくならまだしも、
僕が気づくなんて… 僕と I さんの関係って一体?!



(九州2日目)

バイク乗りの朝は早い。
早朝6時ごろから次々にテントを畳んで出発していくライダー達。
僕達も昨夜阿蘇山頂で無理矢理買わされた「骨付きソーセージ」で軽く朝食をすまし、出発した。

地元のスタンドで今回初の天使と出逢う。若干化粧が濃かったが、僕は大変気に入った。
もしも僕が「僕達関西から来たダメ芸人です! なんでやねん!!」などとちょっと
小粋に一発かませるようなキャラなら、今頃彼女の一人でもいそうなものだが、
悲しいかな小心者の僕は「あっあのぉ〜ちっ近くにコンビニありますかぁ〜」などとどうでもいいような
しゃべりしかできなかった為、メロメロ天国へと発展することはなかった。

昼頃、「高千穂峡」に到着。
バスツアーの客にまじり、ガイドさんの解説に耳を傾ける。

昼食には「流しそうめん」を注文した。
「流しそうめんビギナー」である僕達は最初スルーを繰り返していが、
慣れてくると、今度は「もっと早く!! ちゃっちゃと流してこんかい!!」的な視線を
ひさし越しの「そうめん流し係」に向ける。
それでも流れてこないので、他に注文した川魚の塩焼きに箸を付けている時に
「ざんねんでした〜」と目の前をそうめんが流れて行くのである。
なんだか見事向こうの戦略にはめられた気がする。

昼食を終え、僕達は走り出す。
だいたい1日平均300kmぐらい走ることを予定し、計画を立てていたが、昨日はウハウハ天国に時間を取られて、
150kmぐらいしか走っていなかったので、今日は気合いを入れて走ることにした。

最近かなり走りが上達した I さん
以前は1つコーナーを抜けるたびにバックミラーで伊藤さんの安否を確認していたが、
今では少々飛ばしても、しっかりついてきている。

「 I さん!だいぶ上達したな!」

「そやろ! Kouちゃんの“あいーん”をマネしてたら上手く曲がれるようになってきたわ。」

“あいーん”とは顔をコーナーの出口に向ける一般的なライディングである。
僕のフォームは少々大げさな為、志村ケンの“あいーん”に見えるらしい。


夕方、なんとかキャンプ場に到着した。
早々にテントを張り終え、露天風呂&夕食の買い出しに出かけた。

えびの高原露天風呂は最悪なことに女湯に続く道から男湯がおっぴろげ状態だった。

まさに「仇討ちの湯!」
それほど立派なモノを持ち合わせていない僕達にはとても肩身の狭い温泉だった。
しかも伊藤さんは脱衣所に戻る道すがら、バッタリと女性と目が合ったそうである。

彼女も「ここで目をそらしては私の負けよ! がんばれ私!」状態で一歩も退かなかった為、
2人の間に数秒間の時間が流れたそうである。
結局、両者引き分けと言いたいところであるが、
服を着ている彼女に対して、伊藤さんは全裸で立ち向かったのだから彼女の完全勝利であろう。

キャンプ場の周囲にはスーパーがなく、しかたがないのでみやげ物屋に寄った。
しかしみやげ物屋では食材となるものがほとんどなく、レトルトの「牛タンカレー」が唯一の
食材であった。とりあえず、「牛タンカレー」を購入したもののこれではあまりにも「ああ無情!」と思い、
往復で1時間はかかるであろう「小林」まで買い出しに行くことにした。
そう、あの鯉料理の小林である。

小林のガソリンスタンドの兄ちゃんにスーパーの場所を訪ねるが、
「このぉ〜道をぉ〜右にまがってぇ〜いや 左だったかな? それからぁ〜1つ目のぉ〜あれ?3つ目かも?の信号をぉ〜‥‥‥」
などといまいち要領が得なかった。
それでも伊藤さんは兄ちゃんのしゃべりが気に入ったのか、スーパーに着いてからでも、
「やっぱりぃ〜宮崎牛のぉ〜ステーキがぁ〜いや? しゃぶしゃぶもいいかなぁ〜でもダイエットしないといけないしぃ〜」などとやっていた。

                       つづく