コーヒー・ブレイク(26)花尽くしの旅
こうして、花尽くしの、慌ただしいがなんとも贅沢な旅が、心地よい疲労のうちに終わったのだった。
最後にもう一か所、どうしても立ち寄りたい場所があった。渋谷のBunkamuraミュージアムで今も開催されている“ボッティチェリとルネサンス・フィレンツェの富と美”展である。花の女神フローラから名付けられたというフィレンツェは、まさにルネサンスの花が咲き誇った町。その展覧会は、花を訪ねる今回の旅の締めくくりに相応しいものに思えた。銀行業で財を成したメディチ家が、その莫大な富を文化の興隆に費やした背景が特に興味深かったが、金儲けのダークな一面を、芸術家の庇護、育成という、いわば社会貢献でカバーしようとしたその意図はともかく、フィレンツェにルネサンス文化が花開いたことは紛れもない事実であり、この町が“屋根のない美術館”として今も私たちを魅了し続けているのも、全てはこのメディチ家のおかげであるということもまた事実なのである。
2015.6.4
続いて訪れたのは、都内の旧古河邸庭園である。バラで有名なこの庭も、以前から一度訪れたかった場所だ。幾何学的に整備された英国式庭園には、バラの銘花が揃っている。大正期の洋風建築をバックに、大切に手入れされた幸せなバラたちが咲き誇る様は、これもバラ好きには答えられない空間である。
先日、旬の花を追って日帰りの慌ただしい旅をした。まず、ずっと前から憧れていた“国際バラとガーデニングショー”には、開催が所沢ということもあって二の足を踏んでいたが、池袋から開催期間中だけの特別列車が出ていると知り、思い切って出かけることにしたのだ。
ドーム球場内には、ガーデンデザイナーたちによる見事な庭が、臨時に設えられたとは思えないほど自然に作られていたり、コンクールの受賞作品がずらりと並んでいたりして、そのどれものレベルの高さに唸ってしまった。園芸店の出店も数多く、バラばかりでなく他の花にも新しい、珍しい品種がある。すべてが花好きにはたまらない空間だ。ただ、もう少しゆっくり散策したいと思っても、人の多さがそれを許さない。慌ただしく回らなければならないのが残念であった。