花が咲き花が散り、葉が茂り実がなって、実が落ち葉が落ち、枝だけの寒々とした風景になろうとも、やがてその枝に微かな膨らみを見つける頃にはまた、これ以上は無理と思われるほどぎっしりと八重の花を咲かせる様が目に浮かぶようになる。花が咲くのも自然の営みの一場面に過ぎないが、見ている私にはどうしても、この木がこの季節への段取りを着々と進めてきた成果のように思えてならないのだ。満開の花桃はそれほどに見事な仕上がりなのである。

コーヒー・ブレイク(23)花桃に寄せて

2015.4.4

 ちょうど桜と同じ頃、庭の花桃が見頃を迎える。以前の家の敷地の隅に苗木を植えたのが、見る見る大きくなって毎年綺麗にピンクの花を咲かせていたが、あまりに端っこで窮屈そうだったので、我が家の春を象徴するこの木には新しい家の庭に特等席を用意した。様々な角度から花を観賞できる趣向である。家の設計図が出来上がった時からこの木をここに植えると決めていた。

 先日から始めたライトアップだが、暗闇に浮かび上がった花桃の木は、何かそれ自体に光源をもっているかのように春の夜空で燃えている。あまりにドラマチックで幻想的なので、この世とあの世の境さえ曖昧な心地で、この妖しい異空間に身を委ねる春のこの数日が、私にはこの上ない贅沢なのである。