コーヒー・ブレイク(21)初出店

2014.12.11

 最近、「親の家を片付ける」という言葉をよく耳にする。どの家庭にも身近で、同時に頭の痛い事柄ではなかろうか。わが家も例に漏れず、質素で整然としているふうにもみえた実家の暮らしぶりだったが、いざ片付けるとなると、出てくる出てくる、処分に困り果てるようなものばかり。迷った時は捨てる、を肝に銘じ、長期間かけて終盤戦まで持ち込んだものの、最後まで残ったのは、親が愛用していた陶磁器、漆器の類と、贈答品で捨てるに忍びないレベルの品々、絵画の類、趣味の切手や古銭、アルバム、それに箪笥の肥しの和服類であった。

 とりあえずわが家に引き上げて来てあったのだが、保管しておくにも場所を取って仕方がない。ノリタケを飾ってあるスペースが倉庫と化し、どうしたものかと途方にくれていた。一部ネットオークションに出品したものもあるが、今回思い切って陶磁器、漆器の一部を地元の市(いち)に出品してみることにした。参加申し込み、出店場所のくじ引きからはじまり、当日に向けた準備、さらに当日の販売と、いずれも初めてのことでどれもが新鮮だった。ついでに昔集めた骨董の類も出してみたが、古い物に関心のある人も案外多く、オールドノリタケも何点か置いてみたところ、手に取る人もあって、その名前がよく知られているのはむしろ意外なほどだった。骨董品を扱う店が他にほとんどなかったせいで珍しかったのかもしれないが、それにしても立ち止まる人の多さはこちらの予想をはるかに超えていて、何か妙に手応えを感じてしまった。

 それにしても、何年先になるかはわからないが、この家を片付ける羽目になる子供たちはいったいどういうことになるだろう。まあ当然、こちらも今後は物の軽減に向けて極力努力はするが、なにしろ人が何十年も生きた跡である。相当手こずることの覚悟だけはしておいてもらいたいと、この場を借りて先に断っておこう。

 誰もが手に取りその軽さに一様に驚いた明治の輸出九谷のトリオ。“エッグシェル”と呼ばれるその生地の薄さは、その名の通り卵殻のようで、光にかざせば裏が透けて見える。精緻な絵付けとともに驚きの職人技である。

 おかげで実家の物もかなり減らすことができ、この調子だと、数回繰り返せばほとんど処分できるのでは、と、すっかりその気になってきた。古物に関して言えば、こちらが売りたい、あるいは売れるだろうと思う物と、客が実際に関心を示す物の間にはかなりの食い違いがあるということ、そして、買う買わないは別としてやはりいい物には皆一様に関心を示すということを強く感じた。そして何よりも今回、初めて売り手となったことでその立場も理解でき、今後はあまり見苦しい値切り交渉は避けようと思った次第である。