コーヒー・ブレイク(17)春の訪れ

2014.3.10

 昨年、自宅の風呂に面した一帖ほどの坪庭の、ヒメシャラの隣に赤花の沈丁花を植えた。今度こそうまく根付いてほしいと願いつつ、入浴のたびに注視していたが、何とか無事花を咲かせ始めホッとしている。

 懐かしさから苗木を購入し鉢植えにしたが、順調に育ち数年経った頃、少し元気がないなと思っていたら突然枯れてしまった。またある時は地植えにもしたがなかなか根付いてくれない。園芸店で聞いたら、沈丁花にはよくあることだそうで、結構気難しい木で、根も浅く、植え替えは厳禁とも言われた。

 三寒四温の今日この頃、しかし日差しはもうすっかり春のものだ。梅がちょうど見頃を迎えかぐわしい香りを漂わせている。庭の落葉樹はまだほとんど冬のままのようだが、よく見ると花芽が膨らんでいる。春を知らせる草花が、一足先に控えめに咲いている。

 真っ先に春を告げてくれる日本水仙と沈丁花の香りは、秋の金木犀と並んで昔から大好きなのだが、特に沈丁花には格別の思い入れがある。

 昔、生家の狭い裏庭の、日も差さず風も通らない片隅に、毎年花をぎっしりつける沈丁花の木が紅白二本あった。花が咲き揃う頃ともなれば、厠へと続く縁側に出ると、むせ返るほどの香りに圧倒されたのを子供心にもよく覚えている。

 先日園芸店に立ち寄ったら、クリスマスローズのコーナーが広く設けられていてその人気の高さに驚いた。花の少ない1,2月から咲き始め長く楽しめるこの花は品種改良で種類も多く、控えめで可憐な色や花姿が愛されているのだろう。その店でも“真冬の貴婦人”と紹介されていた。それにしても、“クリスマスローズ”という名前自体は決して悪くないが、“クリスマス”も“ローズ”もやはりこの花には少し違うな、とずっと気になってはいる。

 窓を開け放つには寒すぎる季節だが思い切って窓を開け、まだ香りはかすかだがそれでも確かな春の訪れを感じながら、露天風呂気分で湯に体を沈めてみた。