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さびしい 都月次郎 人間はみんなさびしい そのことをもっと話してもいい。 さびしいから酒をのみ唄をうたう。 大さわぎしたあと 帰っていく一人の後ろ姿を見れば それが分かる。 おじさんだってさびしい りっぱに禿げていても 部下を怒鳴りつけて 女子社員を泣かしても 本当に泣きたいのは おじさんの方だ。 おばさんだってさびしい スカートのホックが閉まらないほど おなかにかんろくがついたって あんなに苦労して育てた 息子や娘たちが 夜中になっても帰って来ない。 猫と二人だけの夜 誰も食べずに冷えていく テーブルの夕飯を見ていたら 外へ出て行きたいのはおばさんの方だ。 子どもたちもさびしい だからあんなにでっかい音で聞く あの音がなかったら そのさびしさにとても耐えられない。 暴走族もさびしい 先生もさびしい 寝たきりのじいさんも ダンスに通うばあさんも レジのパートも コンビニのアルバイトも 不機嫌なタクシーの運転手も 交番の赤い灯の下で 一人で立っているお巡りさんも みんなさびしい。 みんなさびしいのに だれも さびしいと言えない。 |
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