6C19P A級動作カソード平衡出力アンプ

6AN5WAの3結を使用したA級動作カソード平衡出力アンプというアンプを以前ご紹介しました。このアンプでは定位の良いことで定評のある差動プッシュプルのさらに上を行く定位感を楽しむことができました。(あ!、もちろんこれは私がこれまでに製作したいくつかの差動プッシュプルアンプとの個人的な比較です。)差動プッシュプルの特徴としてプッシュプル合成がトランスの一次側電磁結合に依存しないという点がありますが、トランスの中点から電源供給しているため、全く波形合成が無いかという点については議論の余地が有りそうです。 注目したいのが差動プッシュプルアンプにおいて、本来不要なプッシュプル合成が少しでも出力トランスで行われているとすると、そのことが定位感を失わせる方向に働くのではないかという点です。もしそうであれば、プッシュプル合成が出力トランスで行われる事が有り得ないA級動作カソード平衡出力アンプでは、私が感じた差動プッシュプルアンプを凌ぐ定位感の良さを持つということが理論付けられるような気がします。(波形合成が行われないことで音が良くなるという意見をお持ちの方は確かに居られますが、定位感に関係を持つという説は一般的では無いようです。もしかすると私だけかも!)

今回はもう一台A級動作カソード平衡出力アンプを製作して、この定位の良さが本当にこのアンプの特徴なのかを確かめることが目的です。基本的に前作のコンセプトを継承し、より発展させることで前回気になった点の解決を図りたいと思います。

前回の6AN5WAアンプで気になった点は、NFBの補正をかなり強くしてしまったのでやや躍動感に欠ける音になってしまったこと、自宅で使う分には問題ありませんが他の人に聞いてもらうためにはもう少し出力が欲しいということ、そして半導体ドライブ回路を採用した為に真空管アンプビルダーに対してアピール度が低かったこと、などなどを今回は気を付けたいと考えました。

今回起用する出力管は、6C19Pの再登場です。一般論として、A級動作カソード平衡出力アンプは内部抵抗が低くてGmの高い球が向いています。6C19Pは6AN5WAの3結と比較すると、内部抵抗は低いもののGmは良くありません。 が、あまり選択肢が広くないのと、私の好きな球なので今回の起用となりました。

ドライブ回路は、前回の半導体ドライブとは対照的に古典回路を起用します。そうです!前作で気に入ったウィリアムソン型の回路を持ってきました。Gmの低い球を出力管に使うと、非常に大きなゲインとドライブ電圧が必要ですから、ウィリアムソン型はまさに好適です。少し気になるのは、前作の時にこだわった信号路に電源を含まないということを、今回は実現できなくなることです。もしかすると、それが原因で定位感が損なわれる可能性があるのではないかと疑いを持っているからです。

 回路図

アンプ部の回路図を下に示します。A級動作カソード平衡出力回路の設計は、前回と同様にまず差動プッシュプル回路の設計を行い、プレートから出力を取り出した場合の終段のゲインを出してから、カソードから取り出した場合のゲインを算出します。差動プッシュプルの条件としてEp100V、Ip50mA、RL2.5kΩP−Pで、バイアス電圧が約−25V、理想出力が3.125Wとなります。作図的にゲインを求めると1.73倍と出ました。この条件でカソードから出力を取り出すと、終段のゲインは20LOG{1.73/(1+1.73)}≒−4dB(0.63倍)となります。2.5kΩの負荷に対して3.125Wの出力ですから88.4Vの出力電圧が必要で、終段のゲインが0.63とすると、88.4V÷0.63≒140Vのドライブ電圧を必要とします。

まあ何と、140Vです!ここらへんがこのアンプの流行らない理由のひとつですね。今回はウィリアムソン型のドライブ回路で解決します。ウィリアムソン型だと電圧増幅は2段になりますから、オリジナル回路みたいに20dBのNFBを前提にしないかぎり何とかなりそうです。本機で使う出力トランスはあまり深いNFB向けではないと考えられますし、6AN5WAアンプと比較する上ではNFBもできれば同じくらいにした方が良いと考えました。ということで、NFBはやっぱり6dBくらいでしょうか?

差動出力で140Vスイングするためには、ドライブ段には400V以上のVbbが必要です。そうするとオリジナル回路の電圧と近いですから回路定数もドライブ段のカソード抵抗を除いて同じ定数でOKです。オリジナル回路ではドライブ段のカソード抵抗に390Ωが使われていますが、これはそれほど大きなスイング電圧が必要無い前提で、ドライブ段に電流をたっぷり流して直線性の良いところを使おうという意図があるのではないかと思います。本機はオリジナル回路と違って140Vもの電圧を出力する必要がありますので、もっとプレート電流を絞るため、カソード抵抗を1kΩにします。

定電流回路は設定電流が違うだけで、あとは全く同じ回路です。電源電圧はほぼ同じで設定電流が倍ほどになっていますから、消費電力もほぼ倍となり、ステレオ合計で31Wという大きさです。放熱板は大袈裟すぎるくらい大きいのを選ばないとあっちっちになってしまいます。たった3W+3Wを取り出すのに定電流回路だけで30W以上の消費電力ですから、何とも馬鹿げたアンプです。生理的許容限度を越える人も居られるかも知れませんね。

DCバランスサーボ回路も前回と全く同じです。6C19Pは6AN5WAよりもバラツキが大きいですから前回以上にDCバランスサーボ回路は重要だと思います。コンデンサ(16V100μF)の耐圧からサーボ回路の効きを制限していますが、もしかするともう少し効き幅を大きくしないとバラツキを吸収できないかも知れません。その場合は球を選別するか、効き幅を大きく取れるようコンデンサの耐圧、そしてツェナー電圧を高い部品に変更する必要があります。

出力段は±125V、ドライブ回路は400V強ですから、一つの電源トランスでまかなうには適当なものがありません。そこでドライブ回路用にはノグチの豆トランス(と言ってもかなりデカイ!)を使いました。終段の電源は+側だけリップルフィルタを採用して、コンデンサ容量が小さくて済むように配慮しました。−側はリップルが大きくても定電流回路をはさむので、全く問題が無いはずです。

ドライブ回路の実装は前作のウィリアムソン型ミニアンプと同じく基板型のソケットを使用して基板を2階建てにする方法を採用しました。実装面積を小さくするには効果的です。製作途上のアンプ内部をいくつかご紹介します。

 測定データ

まだ完成しておりませんので、データはありません。もうしばらくお待ちください。

 総括

引越し以来生活のリズムが変わり、真空管アンプの製作は遅々として進まなくなってしまいました。今回こうして作りかけのアンプをご紹介するのは、初めての試みなのですが、完成に向けて自分を鞭打つ意味で、あえてご紹介させていただきました。製作していく途上で方針が変わったり、書いた内容が事実と反していたりした場合は、内容を変更させていただくことになると思います。

本機はどう考えても夏向きのアンプではないので、涼しくなる頃に完成するようになんとか頑張ります!

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