ブートストラップを掛けたドライブ段の設計例 |
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出力段設計例のシートより、三極管の例ではドライブに必要な電圧は60Vrms(グリッド−アース間)であることが分かりました。 60Vrms=169.7Vp−pですので、 |
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rpの低い球を選べば250Vの電源電圧でも何とかドライブできるかもしれませんが、余裕は無さそうです。 電源クリップ寸前で何とかドライブできたとしても、ドライブ段 |
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での歪率は相当高くなりますから、出来ればもっと余裕を持ってドライブしたいものです。 今回は出力段にgmの高い球を使いますのでドライブ電圧が低くて済みますが、 |
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gmの低い球だとドライブ電圧はもっと大きくなりますので、出力段と共通の電源では振幅が足らずにドライブ出来ないという事態が充分に考えられます。 ドライブ段用に |
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出力段よりも高い電源電圧を別途用意する手もありますが、電源回路が複雑になりますので、今回のように小出力アンプの場合はできるだけ簡単に済ませたいものです。 |
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そこで、本家マッキントッシュのアンプにも使われて |
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いるブートストラップという技法を使って、ドライブ |
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電圧を出来るだけ大きく稼ぐことを検討します。 |
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ここでのブートストラップというのは、右の回路図の |
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ように、通常は電源に接続するドライブ段の負荷 |
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抵抗を、電源ではなく同相信号を出力する出力段の |
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プレートに接続する方法です。 これだとドライブ段の |
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電源電圧は、出力段の利得分だけ高い電圧となり、 |
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しかもそれは出力トランスによって昇圧することが |
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できるので実際の電源電圧よりも高い電圧を利用 |
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することが可能になります。 |
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理由は後述しますが、ブートストラップを掛ける場合は |
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ドライブ段には三極管を利用します。 三極管で |
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大きなドライブ電圧が欲しい時は、ブートストラップの |
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有無に関わらずできるだけrpの低い球を選びます。 |
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ここでは入手の容易な12AU7を使います。 |
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ブートストラップを掛けると、ドライブ段の実質的な |
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負荷抵抗は、実抵抗値の数倍以上になります。 |
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その計算方法は、下のページの一番下の式(34)に |
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あるように、 |
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http://ayumi.cava.jp/audio/higpk/node2.html |
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Rp’= Rp/(1−A2) |
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=10kΩ/(1−0.884) |
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=86.2kΩ |
となります。 |
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ここで、A2は出力段のグリッドからカソード(あるいは |
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交流負荷はこの値と出力段のグリッド抵抗の並列 |
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プレート、つまり、ブートストラップしている点)までの |
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合成値となり、グリッド抵抗を470kΩとすると、 |
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利得です。 |
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72.8kΩとなります。 一見して12AU7に10kΩの |
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負荷抵抗は低すぎると思われたかもしれませんが、 |
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実質的には7倍以上になりますので問題はありません。 |
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ただし、この倍率は出力段の利得に依存しますので、 |
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出力管がgmの低い三極管の場合はもっと低い倍率に |
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なります。 |
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左図はドライブ段のロードラインです。 まず、バイアス |
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電圧(約−11V)を考慮して(239V、0mA)の点から |
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10kΩの直流ロードラインを引きます。 |
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次になるべく振幅が大きく取れそうなところに動作点を |
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決めます。 ここでは209V、3mAに設定しました。 |
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共通カソード抵抗は、11V/6mA≒1833Ωとなり、 |
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直近の1.8kΩを選びます。 |
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次に動作点を通る72.8kΩの交流ロードラインを引き |
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ます。 交流ロードラインがVg=0Vの特性曲線と交差 |
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する電圧が約53V、プレート電流がゼロとなる電圧が |
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約427Vですから、得られる最大振幅は、427V−53V |
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=374Vp−p =132Vrmsとなり、必要なドライブ電圧、 |
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60Vrmsは余裕でクリアできます。 |
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このように、今回の回路ではブートストラップを掛ける |
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ことで427Vの電源電圧を与えた場合と同等の最大 |
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振幅を得ることができたことになります。 大きなドライブ |
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電圧が必要なCSPPアンプにとってブートストラップは |
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非常に有効な技法であることがお判りいただけたと |
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思います。 |
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しかし、出力段に三極管を使った場合は、ブートストラップを |
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掛けても充分なドライブが出来ないことが有り得ますので |
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球の選択には注意が必要です。 出力管にはμが大きい |
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球を選び、かつドライブ管はrpの低い球を選ぶという組合せが |
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成功への鍵となります。 |
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さて、ブートストラップは確かに有効な技法ではありますが、良い事尽くめというわけではなく、気をつけなければならないことがあります。 |
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出力段からドライブ段へ同相信号を戻すわけですから、これは正帰還(PFB)となり、利得が増えて出力インピーダンスが上昇します。 利得が増えるのは悪いことではありま |
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せんが、この利得の増大は出力段のカソード帰還効果を減じることで生じるものですから、単なる副産物であって本来の目的ではありません。 むしろCSPPの特徴のひとつ |
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である低い出力インピーダンスが損なわれてしまうことは問題ですから、PFB量はできるだけ少ない方が良いわけです。 ブートストラップの目的は利得の増大ではなく、 |
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ドライブ段の最大出力(振幅)を拡大させることです。 今回検討した回路ではドライブ段の負荷抵抗はブートストラップによって10kΩ→86.2kΩに上昇しました。もし、ドライブ |
段に多極管を用いたとすると利得が大きく上昇し、相応に出力インピーダンスの増大の度合いが高くなるため、CSPPの恩恵を大きく損なってしまいます。 一方、三極管で |
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ドライブした場合は、実質負荷抵抗がいくら上昇しても、球固有のμ以上に利得が増えることはありませんので、利得の上昇は2〜3dB程度に留まり、出力インピーダンスの |
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上昇も大きくありませんから、与える影響を小さく抑えることができます。
また、多極管のドライブ段にブートストラップを掛けた場合は、実質負荷抵抗が上昇することから負荷 |
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抵抗による出力インピーダンスの低下が期待できないため、高域特性が悪くなってしまいます。 これらが、ブートストラップを掛ける場合のドライブ段に三極管を使う理由です。 |
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(注: ブートストラップを掛けた時の実質負荷抵抗の求め方については、2008年12月19日(金)14時53分26秒にAyumiさんが「ものつくりの掲示板」に書き込まれた説明文を |
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引用させていただきました。) |
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