7984ULプッシュプルアンプ

本機は2003年1月12日に行われたぺるけ師匠の大人の自由空間BBSのOFF会に持参するために、間に合うように製作したアンプです。 私が製作したアンプの中で、このアンプほど当初の考えからかけ離れたものとして完成したアンプは他にありません。 最初は6CK4差動PPアンプで使用したスイッチング電源がもう一つあるのでそれを使ったアンプを、ということでスタートしました。 7984という球を選択したのも、ヒーター電圧がスイッチング電源の仕様とベストマッチだったことからです。 そして6BQ6PPアンプで少し見直した多極管のネイティブ動作+カソード帰還をステレオアンプで検証しようというつもりでした。 ところがこのスイッチング電源が結構大きく、アンプ全体がかなり大きなものになりそうだったので、コンパクトなアンプを愛する私としては気に入らず、もっと小さく出来ないかな〜っと考えあぐんでいるところに、ぺるけ師匠の講座のアンプ用の標準シャーシを頒布するということを聞きました。 本機は講座の内容とは全く違うのですが検討したところ、スイッチング電源ではなく普通のトランスで電源部を構成すれば実装できるという結論に達したので、最初の方向転換をしました。 標準シャーシに実装できるように電源部の設計をやり直している頃に、ぺるけ師匠の「なんでもあり」の方のBBSで終段のDCバランスについての話題が出ましたので、前作のEL95超三結差動PPで大変良く動いたDCバランスサーボを終段だけで完結するように変更して盛り込むことにしました。 すると購入した出力トランスではカソード帰還と考案したDCバランスサーボが両立しない事が判明したため、変形UL接続に変更するという、2つ目の方向転換をすることになりました。 ここに至ってスイッチング電源の活用と多極管のネイティブ動作+カソード帰還の追試という最初の目論見が全てどこかへ行ってしまうということになってしまいました......

 動作中の7984

本機の終段を構成する7984は、スペックシートを見ると車載用無線機の終段用に開発された球のようです。 ずんぐりむっくりの格好が何ともユーモラスで、12B4Aや6C19Pのように2ピースのプレートを向かい合わせた構造になっているので、赤熱したカソードが観察できる珍しい構造をしています。 もう少し背が高いと見栄えがすると思うのですが、スペックシートにはロープロファイルが一つの特徴とうたってありますので、こればかりは望むべくもないことでしょう。

 回路図

下図がアンプ部の回路図です。 もともとは出力トランスのKNF巻線を利用してカソード帰還を掛けようと考えていたのですが、DCバランスサーボ回路を追加しようとするとセンタータップではなくて2巻線が別々に取り出せるものが必要なため断念しました。 そしてせっかくのKNF巻線の活用として、7984のようにプレート電圧とスクリーングリッド電圧が大きく違う球では通常のUL接続ができないので、KNF巻線で変則UL接続を試してみました。(結果的には巻線が少なすぎてほとんど効果が現れませんでしたが....)

DCバランスサーボ回路は終段だけで完結させても全然問題なく動いています。 しかしながら今まで製作したアンプでは、製作時にDCバランスを調整した後、経時変化によって不具合が生じた経験は特にありません。 もしかするとバランスがかなり狂っているものもあるのかも知れませんが、少なくともDCバランスが崩れたことによって聴感上明らかに不具合が出たという経験はありませんので、どんなアンプでもDCバランスサーボ回路が必須と言うわけではないでしょう。 直結増幅回路は別として、本機のようにコンデンサ結合の終段には実際上あまり必要が無いように思います。 本機は多分に実験的な要素が大きいですが、最初に調整するだけで良いので、ずぼらな人には良い回路かも。

電源回路は、ほぼ6BQ6PPアンプと同じ構成になりました。 クロストーク対策として、左右のチャンネル毎にチョークコイルを、そして電流変動の大きいスクリーングリッド用の定電圧電源もチャンネル毎に用意するという豪華版です。 マイナス電源は安直にスイッチング電源を使用しましたが、スイッチング電源からのノイズがかなり大きいので、通常のトランスを使ったほうが残留ノイズをずっと小さく出来ます。

 配線前にOPTケースを外してみました。

 測定データ

NFBを掛ける前の測定データです。

ダンピングファクタ Lch 0.18(1V → 6.624V)
(8Ω負荷、1kHz、1V) Rch 0.17(1V → 6.971V)
利得(at 1kHz) Lch 30.30dB
  Rch 29.96dB
残留ノイズ Lch 1.133mV(10〜300KHz)
(8Ω負荷、VR最小)   46.35μV(IEC−A)
  Rch 0.750mV(10〜300KHz)
    40.50μV(IEC−A)

NFBを掛ける前にネイティブ動作と変則UL接続の比較を簡単にしてみましたが、最大出力が21.5W→21.3W(Lch)、21.5W→21.1W(Rch)、ダンピングファクタが0.092→0.18(Lch)、0.088→0.17(Rch)とほとんど変化は見られませんでした。

周波数特性(無帰還)

歪率特性(無帰還)

NFBを掛けた後の測定データです。

最大出力 Lch(100Hz) 20.9W
(8Ω負荷、1%THD)    (1kHz) 21.3W
     (10kHz) 21.8W
  Rch(100Hz) 20.8W
     (1kHz) 21.3W
     (10kHz) 21.5W
周波数特性 Lch(at 10Hz) −1.72dB
(1V、8Ω負荷、1kHz基準)    (at 120kHz) −0.04dB
  Rch(at 10Hz) −1.60dB
     (at 120kHz) +0.08dB
最低雑音歪率 Lch(100Hz) 0.0415%(0.15W)
(8Ω負荷、10−80kHz)    (1kHz) 0.0145%(0.2W)
     (10kHz) 0.0140%(0.05W)
  Rch(100Hz) 0.0443%(0.15W)
     (1kHz) 0.0183%(0.07W)
     (10kHz) 0.0165%(0.03W)
ダンピングファクタ Lch

3.06(1V → 1.327V)

(8Ω負荷、1kHz、1V) Rch 3.16(1V → 1.316V)
仕上り利得 Lch 17.74dB(NFB=11.16dB)
  Rch 17.91dB(NFB=11.18dB)
クロストーク Lch → Rch −99.48dB
(at 20kHz) Rch → Lch −86.52dB
残留ノイズ Lch 895.5μV(10〜300KHz)
(8Ω負荷、VR最小)   11.26μV(IEC−A)
  Rch 676.9μV(10〜300KHz)
    15.06μV(IEC−A)
消費電力   未計測

周波数特性(NFB有)

歪率特性(NFB有)

クロストーク特性

 配線前のはらわたです。

 総括

本機は最初のコンセプトからはかけ離れてしまったのですが、超三結ではない多極管プッシュプルアンプとしては私にとって初めての作品です。 多極管アンプの一般的な弱点は全て当てはまるアンプですので、緩い低音に関しては目をつぶると言うか、多極管アンプってこんなもんなんだな、と再認識する題材だと思っています。 総じて一般的に言われる真空管アンプの音っていうのはこんな音なのだろうな〜っという感じです。 まあ、昔よく聞いた懐かしい音のように感じます。 私がここ最近製作してきたアンプとは違って、あまり私の好みでは無いのですが、いつもお世話になっているCDショップの店長はこのアンプの音がお気に入りで、長らくこのCDショップのエースの座を守ってきた6C19P SEPPアンプを控えに廻してしまったくらいです。

近い将来新作アンプで、このアンプをエースの座から引きずりおろした暁には、超三結アンプに作り直そうと画策しているのですが、さて、それはいつのことになるのでしょうか?

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