6C19Pプッシュプル直結アンプ

本機は私の真空管アンプ2作目としてスタートしたのですが、許容範囲をはるかに越える発熱の為に、ずっと棚置きになっていて、このホームページがスタートした時から番外編でちょっとだけご紹介させて頂いていたものです。この他にも作りかけのアンプが幾つかあり、置き場所が無くなってきたので「いい加減に何とかしなくては!」と重い腰を上げました。製作を中断してから約2年半も経つと設計思想が随分変わるようで、電源回路も含めて中身は殆ど入れ替わることになってしまいました。共通点は出力管と電源トランスを除く機構部品のみとなりましたので、全く別のアンプと言っても良いくらいですが、いちおう作りかけのアンプを完成させたということにしておきます。

シャーシ等はそのまま利用しましたので、アンプ設計上かなりの制約事項となりましたが、そういった制約の中でアンプを設計するのも、また違った楽しみがあります。今回は6C19Pを金田式DCアンプの回路を元に通常のプッシュプルアンプとして仕上げて、以前に製作した同じ6C19PのSEPPアンプとの音の比較を行いたいと考えました。SEPPアンプの方も金田式アンプの回路がベースになっていますので、ドライブ回路は基本的には同じ構成となり、出力段のDEPPとSEPPの違いを主に比較するということになるのではないかと思います。

 球はEC86と6C19Pです

 回路図

アンプ部の回路図を下に示します。シャーシには6DJ8と5687が差さっていたMT9ピン用の穴があります。穴が開いたままでは不細工ですから、初段の差動増幅回路は是非真空管で組む必要があります。6C19P SEPPアンプの回路構成と基本的に同じと書きましたが、そういった事情で初段の素子が半導体(2SK389)と真空管(6CM4/EC86)の違いがあります。はじめは出力段をカソードフォロアの形で出力を取り出そうと実験を始めたのですが、特性的なメリットを感じませんでしたので結局通常のプッシュプル動作で完成させました。出力トランスは5kΩp-pのものですが、16Ωタップに8Ω負荷を接続して2.5kΩとして使っています。

本機は直結アンプですから各段でDCバランスが崩れると、出力トランスの1次側に不平衡電流が流れます。特に初段でバランスが崩れると、ゲインの高い2段目で直流増幅されてしまいますので不平衡電流が非常に大きくなってしまいます。SEPPだとNFBで影響を抑えることが可能ですが、トランスを挟むとDC領域では全く帰還がかかりませんからオーバーオールNFBで不平衡電流を制御することは不可能です。本機はバラック実験からスタートし、始めはDCバランスサーボを入れずにDCバランス調整用の半固定VRを設けていたのですが、調整しても調整してもすぐにバランスが崩れてしまい、不平衡電流を零にできませんでした。恐らく初段の差動回路を真空管で構成した事が拍車をかけているのではないかと思います。本機の構成では、よっぽど不平衡電流に鈍感な出力トランスでも使用しない限り、DCバランスサーボ無しでは、実用アンプとして仕上げるのは難しいのではないかと思います。前作の7984PPアンプではDCバランスサーボ回路の必要性はあまり感じませんでしたが、本機での貢献度は絶大です。適材適所ということなのでしょう。

本機の調整箇所は2箇所です。まずDCバランスサーボ回路に入っている500Ωの半固定VRで、終段の両カソード間の電圧を可能な限り0Vに近くなるよう(±1mV以内くらい)に調整します。次に初段に入っている50Ωの半固定VRで終段のアイドリング電流調整を行います。出力段のカソードに入っている電流検出用抵抗(4.7Ω)の両端の直流電圧を見ながら調整します。今回はアイドリング電流を各30mAに設定しました。アイドリング調整をした後、もう一度DCバランスをチェックします。アイドリング電流は電源投入後しばらくは落ち着いてくれませんので、30分後にもう一度調整するか、充分にウォーミングアップを済ませてから調整したほうが良いと思います。

本機とSEPPアンプとの大きな違いは、出力トランスがNFBループの中に入るので、オーバーオールのNFBをあまり深く掛けられないという点です。MJ誌の金田式DCアンプの記事でも触れられていますが、この回路は2段目に高耐圧のPNPトランジスタを使用するため、素子の入力容量の影響が大きく、この段でアンプの高域特性がほぼ決定してしまいます。本機では出来るだけ初段の出力インピーダンスを下げるため、8.5mAという多めのプレート電流と820Ω(+50Ωのバイアス調整用半固定VR)の負荷抵抗を使って帯域を少しでも伸ばす努力をしたつもりですが、無帰還状態では40kHzに達しない周波数で−3dBというかなり不満な特性になっています。また、高い周波数で振幅が大きくなるにつれて歪率が顕著に増える現象がありますが、これは2段目のトランジスタのCobの電圧依存性のためではないかと思います。これらの点はSEPPだと深いNFBに助けられてそれほど目立たないのですが、NFBが10dBに満たない本機のNFBでは改善の度合いも少ないので目立ってしまいます。

電源回路は全く別のものに置き換えました。差動プッシュプルの場合は、6C19Pの適正プレート電圧が低いとはいえ、深〜いバイアス電圧がB電圧に足されるので市販のトランスでも対応可能なものがありますが、通常のプッシュプル回路で固定バイアスの場合は、200V以下(本機では約172V)のB電圧を用意するのは大変です。本機では倍電圧整流用の電源トランスをブリッジ整流することで対応しました。結構いいアイディアだとは思いますが、やはり現在入手できる倍電圧整流用の電源トランスは限られています。

 はらわた

 アンプ部のアップ

 電源部

 測定データ

NFBを掛ける前の測定データです。

ダンピングファクタ Lch 1.20(1V → 1.835V)
(8Ω負荷、1kHz、1V) Rch 1.18(1V → 1.845V)
利得(at 1kHz) Lch 22.47dB
  Rch 22.765dB
残留ノイズ Lch 0.571mV(10〜300KHz)
(8Ω負荷、VR最小)   104.6μV(IEC−A)
  Rch 0.965mV(10〜300KHz)
    132.6μV(IEC−A)

周波数特性(無帰還)

歪率特性(無帰還)

NFBを掛けた後の測定データです。

周波数特性 Lch(at 10Hz) −0.21dB
(1V、8Ω負荷、1kHz基準)    (at 100kHz) −6.54dB
  Rch(at 10Hz) −0.27dB
     (at 100kHz) −6.34dB
最低雑音歪率 Lch(100Hz) 0.0260%(0.05W)
(8Ω負荷、10−80kHz)    (1kHz) 0.0291%(0.05W)
     (10kHz) 0.0372%(0.07W)
  Rch(100Hz) 0.0547%(0.05W)
     (1kHz) 0.0507%(0.07W)
     (10kHz) 0.0686%(0.05W)
ダンピングファクタ Lch

3.61(1V → 1.277V)

(8Ω負荷、1kHz、1V) Rch 3.64(1V → 1.275V)
仕上り利得 Lch 14.03dB(NFB=8.44dB)
  Rch 13.97dB(NFB=8.79dB)
クロストーク Lch → Rch −77.97dB
(at 20kHz) Rch → Lch −66.59dB
残留ノイズ Lch 205.9μV(10〜300KHz)
(8Ω負荷、VR最小)   31.32μV(IEC−A)
  Rch 337.2μV(10〜300KHz)
    54.11μV(IEC−A)
消費電力 無信号時 70.1W(100V、0.737A)
  5W+5W出力時 95.8W(100V、1.055A)

周波数特性(NFB有)

高域周波数特性比較(Lch)

高域周波数特性比較(Rch)

歪率特性(NFB有)

クロストーク特性

 総括

本機の製作が頓挫した直接の原因であった発熱の問題は、無信号時の消費電力を70W(差動PPの時は何と155W!)に抑えることで解決出来たと思います。とはいえ、初段には2本で合計17mAのプレート電流を流していますので、アンプ前面はかなり発熱します。できれば夏はクーラーのきいた部屋で使用する方が良さそうです。

バラック実験を経て回路定数を決定しましたので、全般的に測定データはそれなりの結果を出すことが出来たと思いますが、やはり高域の周波数特性は少し不満です。次回作にも同じ基本回路を採用するつもりですが、その時には電源電圧を下げて、2段目のトランジスタの選択幅を広げることで本機よりはマシなデータが出せるようにしたいと思っています。

完成してから日が浅いため、音質に関してはまだまだ評価が出来ておりません。このところサボっていた為にホームページの更新が出来ていないので、少しでも早く更新することを優先しました。もう少しこのアンプと付き合ってから加筆したいと思います。

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