番外編 6BM8三結差動プッシュプルアンプ

 ケースを外したところ

このアンプはまったくの冗談といいますか、ノリと勢いで作ったアンプです。ずっと昔に製作した、オペアンプに電流バッファを付けた構成の小型ステレオパワーアンプ(2W+2W)の片チャンネルが動作しなくなったのと、日本橋のスーパービデオでそのアンプの筐体にうまく収まりそうな極小出力トランス(OPT)をたまたま見つけたことがきっかけで、このアンプを作ることになりました。コンセプトは、とにかくそのケースに入る真空管アンプを作る、です。

 ジャンク品OPT(5kΩCT付:8Ω)が奥に見える

 回路図  

いろいろ考えた結果、複合管を積極的に利用することとし、6BM8を使って三結差動PPを2段構成で行うことにしました。したがって今回は増幅素子には小型化できる半導体は敢えて使用せず、定電流源と電源のリップルフィルタだけにトランジスタを使っています。このアンプで頭を悩ませた問題は電源トランス(PT)です。ケースの内寸が40mmですので、一般の真空管用のPTを使うことができません。また、6BM8を横向きに4本入れるとなると、電源部分用に残された筐体の残りの面積もかなり小さいので、全く適当なものがありませんでした。この時点で実用的なアンプを作ることをあきらめました。ど〜せ冗談で作り始めたアンプですから。

人間開き直りさえすればかなり思い切ったことができます。ジャンクの中からとにかくケースに入るPTを探し出し、2個で無理やり必要な電圧(だけ)をでっち上げました。30V程度の2次巻線を倍電圧整流してさらに2個分を直列につないでなんとかB電圧をひねり出しました。電圧は何とか出ましたが、電流が全然足りません。実用的でないというのはこの部分です。容量を越えた電流を絞り出す電源トランスの発熱が尋常でないのと、この閉じた空間の中では6BM8からの発熱もまた限度を超えるものでした。結局このアンプは事故防止の観点から、時間限定でしか運転できないウルトラマンのようなアンプとなりました。

 動作中の真空管

 測定データ

周波数特性(Rch)

全高調波歪率

あまりに実用性の乏しいアンプなので、データをきっちりと取ってはいません。とりあえず目標の1W+1Wは出力することができました。OPTが余りに貧相なので周波数特性(グラフはRchです。Lchもほとんど変わりません。)が非常に悪く、6dBのNFを掛けて、やっと20〜20kHz、−3dBを何とか確保できる程度です。結構気になる程度のハムノイズも出てますが、まじめに対策する気にもなれません。

 電源部

 総括

このアンプを作ったのは、全てをコンパクトな筐体の中に収めて、一見するとトランジスタアンプのように見える真空管アンプを作ってみたかった、ということが大きな理由です。しかし、真空管アンプの魅力のひとつである真空管のフィラメントのほのかな明かりをぼ〜っと眺めるということが、このアンプではできません。そんなことは作る前から判っていた事なのですが、思っていた以上に真空管アンプの魅力を殺いでしまいました。

私は、ばかでっかい真空管アンプよりも、コンパクトなものを好みます。小さくできるならば小さいほうが良いと思ってます。コンパクトに仕上げるだけなら、トランジスタアンプに勝るものは無いと思いますが、私にとって真空管アンプにはトランジスタアンプにない魅力が溢れています。私が真空管アンプを製作するときは、常にできるだけコンパクトに仕上げようという気持ちを持っています。しかし、このアンプみたいに小さすぎると、放熱ができず実用性を失ってしまいます。実用性を確保できる範囲で、できるだけ小さいアンプを作る、ということが私の目標のひとつですが、これは大変難しいことです。このアンプは私にとって復帰2作目で、この次に手がけたのが6DE7差動プッシュプルアンプです。このアンプでも発熱には大いに苦しみました。これを書いている現在は6C19P差動プッシュプルアンプを組み上げて、調整および測定中ですが、このアンプもかなり熱くなります。私にとってアンプの小型化と放熱の問題は、これから先もずっと取り組んでいかなければいけない大きなテーマなのでしょう。

全くもって自分の馬鹿さ加減を痛感するアンプではありますが、せっかく作ったのですし、ただでさえ内容の薄い私のホームページですから、番外編として加えさせていただきました。

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