17JG6A島田式クロスシャントプッシュプルOTLアンプ

本機は手作りアンプの会関東支部の2012年夏のお寺大会が「OTL大会」ということで、これに参加する為に現在鋭意製作中のアンプです。

アンプ回路は拙のOTL第一作を 踏襲していますが、島田式クロスシャントプッシュプル(CSPP)の要素を取り込むことでフローティング電源を追放し、スクリーングリッド(SG)への 電圧の与え方を工夫して出力管を多極管化しています。 また、拙の真空管アンプとしては初めての強制空冷アンプでもあります。

 島田式クロスシャントプッシュプル

私は主に上條氏のCSPP回路の基礎解説ページからCSPPを 勉強しましたので、これまでマッキントッシュ回路(Unity Coupled Circuit)やサークロトロン(Circlotron)をCSPPと呼んできましたが、 CSPPという名前を初めてこの世に登場させたのは、1952年のラジオ技術誌における 島田氏の記事なのだそうです。これがCSPPの原典であり、 本当はこれだけをCSPPと呼ぶべきなのかもしれません。上條氏のページでは、等価な回路であるマッキントッシュ回路とサークロトロンを 含めて広義のCSPPという考え方をされていますので、私もそれに倣っています。

上の図は、拙のOTL第一作でのサークロトロン回路と島田式CSPPとの違いを示したものです。こうしてみると両者のアンプ回路は全く同じで、 電源の与え方が違うだけです。フローティング電源の代わりに、チョークコイルを用いて電解コンデンサを擬似フローティング電源に見立ててやると 島田式CSPPにすることが出来ます。チョークコイルをセンタータップ付きにすると、チョークコイルの個数が減りますしコアギャップを設ける 必要がなくなりますので小型化ができます。サークロトロンで負荷にパラに入っている抵抗は、負荷の中点をグランドに落として信号の基準点を 決めているだけですので、チョークコイルのセンタータップがグランドに接続されている島田式CSPPでは省略することができます。

ちなみに島田式CSPPのプレート側とカソード側のチョークコイルを、上図のようにバイファイラー巻きで、かつセンタータップを持ったトランスに 置き換えたらどうなるでしょうか? CSPPとしてはマッキントッシュ回路が成立すると思いますが(注:マッキントッシュ回路はバイファイラー巻き トランスの二次側から出力を取り出していますので、厳密にはマッキントッシュ回路は呼べないと思います。電源の与え方が同じになるというのが 正解でしょう。)、バイファイラー巻きトランスがプレート側の出力をカソード側(負荷)へ伝達するためにOTLアンプでは無くなってしまいます。 実は最初はそれに気が付かずに、この回路でアンプを製作してみようと考えていたのですが、めのさんの掲示板でAyumiさんから指摘を受けて 断念しました。(Ayumiさん、その節は有難うございました!)

以上のように、マッキントッシュ回路、サークロトロン、島田式CSPPという3つのCSPPのバリエーションは電源の与え方が違うだけで、 アンプ回路は等価と考えることができます。

ということで、センタータップ付きチョークを2個づつ使った島田式CSPP回路でOTLアンプを製作しようと思ったのですが、電源回路以外は拙の OTL第一作と全く同じですので、あまりにも芸が無いと考え直し、もうひと工夫加えることにしました。

上の図は、プレート側のセンタータップ付きチョークコイルをバイファイラー巻きトランスに置きかえ、バイファイラーのもう片方の巻線を多極出力管の SG電源給電用に利用するものです。グランド(電源)を基準として交流的にみるとプレートとカソードには互いに同じ電圧、かつ逆相の信号が発生します。 各々のSGにはバイファイラーに巻いた巻線がプレートと逆相になるように接続されていますので、SGとカソードは同振幅、同相の信号となります。 すなわちSGに供給される直流電位はカソードに対してコンスタント(一定)とみなすことができ、出力段は多極管のネイティブ動作となります。

ところで、オーディオアンプ回路において多極管のSG電圧をカソードに対して一定に保つということは、簡単なようで実は簡単ではありません。 というのは、多極管は内部抵抗が高いことから出力インピーダンスが高くなってしまうため、オーディオ用途としては素のネイティブ動作で使われることが 非常に少なく、少しでも出力インピーダンスを下げる為にカソード帰還を掛けてみたり、UL接続にしたりすることが多いため、SG電圧をカソードに 対して一定に保つことが容易では無いからです。私はカソードに対するSG電圧の定電圧化が音質に寄与する貢献度を高く評価しており、OTLアンプに おいても同様の効果を持つであろうと期待しています。

なお、このバイファイラー巻きトランスはSG電源を与える手段として使われるだけであり、負荷に出力を伝達するものではありませんので、 OTL(アウトプット トランス レス)アンプとしての要件は満たしていると考えています。しかしながらOTLアンプなのにオーディオ信号を 伝達するトランスを使うということに関しては、中途半端な感じがするのは否めません。本機では努めて電源側のパーツだと考える事にしています。

出力管のSG電圧はできるだけ高く設定した方が大きな電流を流すことができますので、OTLアンプにおいては出力が大きくなり有利です。 一方、負荷抵抗が極端に低いためプレート電圧は低く抑えないと出力管の動作が過酷になり過ぎますし、ロードラインが肩特性を上手く使えない領域では 電圧を高くしても出力がそう大きくなるわけでもありませんので、プレート電圧とSG電圧は通常の使い方とは高低が逆になります。ここら辺は フッターマンのOTLアンプと同じ考え方です。バイファイラー巻きトランスを使った島田式CSPPだと、サークロトロンにおける複数の フローティング電源を追放することができ、プレート電圧、SG電圧は独立して電圧を決めることができますので、製作が楽になると思います。

 回路図

下図が本機のアンプ部回路図です。本機は現在製作中のため、最終的なものではありません。

電圧増幅段およびDCバランスサーボは拙のOTL第一作とほぼ同じです。出力増大に備えて最大ドライブ振幅を大きくするため、初段の球を 12AT7から、内部抵抗のより低い6BK7Bへ変更し、プレート電流を絞っています。オペアンプも変わっていますが、これはICソケットを 使っていますので、いろいろと取り替えて音質を評価してみようと考えています。

17JG6AのSG電圧180VのEpIpカーブが見当たりませんので出力段の利得推定の精度が低いため、初段の利得とNFB量は実機が出来てから 調整する予定です。CasComp応用回路は利得が簡単に調整できるので、こんな時には重宝します。

最大出力の検討はとりあえずSG電圧175VのEpIpカーブを利用します。ヒーターの点火は6本を直列にするとAC100Vでの点灯が 可能ですので、電源トランスのサイズを下げる為にヒーター点火はAC100Vで行います。とすると出力段は3パラプッシュプルとなり、 一本当たりのロードラインは24Ωで引き、あとで3倍して最大出力を求めます。

(85V−65V)×0.848A/2×3パラ=25.44W

SG電圧は180V前後になると思いますので、電源さえしっかりしていればもう少し出力は出るかもしれませんが、最大出力時には大きな電流が 流れますので、本機のように容量的に苦しい電源トランスでは、むしろ電圧がヘタって出力が小さくなる可能性があります。

下図が本機の電源部回路図です。これも同様に最終的には変更する可能性があります。

強制空冷アンプということで、DCファンの制御回路が真空管アンプには少し珍しいところでしょうか。ファンの起動を確実にするため、電源投入時に 少しの間だけ定格電圧を掛け、その後電圧を1/2以下に落として、ファンの風切ノイズをできるだけ小さくします。 シャーシの温度が上昇して 電源トランスの真下の50℃のサーモSWが入ったら、定格電圧が掛かってファンをフル回転にして冷却能力を上げるという簡単な回路です。

 実装設計

だだっ広いシャーシに、ただ風を送り込むだけでは冷やしたい部分を効果的に冷やすことができませんので、導風路とでもいうのでしょうか?、 風を誘導するためのボール紙を入れます。

ボール紙をめくってみました。

ボール紙でシャーシを2分して、真ん中の基板の下から電源トランス、出力管へ風を送ります。電源トランスの容量が心許ないので、電源トランスを 特に冷やしたいのですが、上手く行くかどうか...ここらへんの検証は時間が非常に掛かるのでお寺大会までに追い込むのは難しいでしょうね。

 測定データ

工事中!

 総括

工事中!