榊原の糸さくら

榊原の糸さくら

=榊原ものしり講座から=

*湯治客を癒してきた糸さくら*


榊原で一番早く咲く桜は神湯館のしだれ桜とされていますが、この桜「糸さくら」といって、ずいぶん昔から花を咲かせていました。

北畠の歌人・権少将源國永が、この糸さくらを数多くの和歌にしていますが、その中のひとつに
春風もちらさぬほどの庭の面に乱れて匂ふ糸櫻かな  権少将源國永

また松尾芭蕉も句を残しています
葉桜に袴の裾もぬれにけり             はせを

他にも
温泉けむりの中に立ちけり糸さくら         伊勢香素

このように数百年前から湯治客を癒してきた糸さくら、古木ではあるがいつごろからあったのでしょう。

明治27年にまとめられている温泉由来記に「糸櫻」が書かれていますが、それによると・・・
「観音堂の境内にあり。その経歴は数百年に及ぶ実に希代の老樹なり。樹高1丈8尺(6メートル)、回り5尺(1.65メートル)枝葉地上に垂下し、その姿は老柳のごとし。樹下には芭蕉翁反古塚あり(後略)」
と記されています。
少し解説をしますと、400年あまり前からこの辺り一帯に湯治場がありました。その東の端(坂口米穀店)に観音堂と芭蕉翁反古塚が並んでいました。その間に糸さくらの古木があったわけです。明治の終わり頃、神社を抜ける道路が開通し観音堂と反古塚は移転しました。そのとき糸さくらの古木は伐採され、そこから取り木をした糸さくらの苗木がその当時の保寿園(現在の神湯館)の前に植えられたのでしょう。いまきれいな花を咲かせている糸さくらは、およそ樹齢100年と言ったところでしょうか。二代目です。
樹齢100年と言ってもかなりの老木です。これを絶えさせては駄目だと思い、神湯館に何年か前から糸さくらの子供をお願いしていたのですが、現在の田中支配人のご尽力でその準備に着手してもらっているようで一安心。毎年、きれいな花が咲きますように。

−平成19年3月29日更新−