小机を動かすだけの冬用意
頃合いと夜風が誘ふおでん酒



薔薇に棘女の敵は女かな
何からか話のそれて戻り梅雨
梅雨寒や書斎の椅子のきしみ癖
父ほどの酒豪になれず葛ざくら
正論はいつも孤立や著莪の雨
新茶汲む明日の晴れを疑はず


今朝秋や珈琲熱く濃く淹れる
途切れたる父子の会話虫の闇
どぶろくに酔うて無頼の血を濃くす
沈黙も会話の一つ虫しぐれ
老の坂峠はすでに薄紅葉
ほつほつと萩咲き萩のこぼれけり
詣で道せばめて萩の白毫寺
十五万石城を仰げば十三夜
大和棟高窓鳴らす雁渡し
はてさてと汐刻はかる秋扇
暮の秋羅漢につもる話あり



おぼろおぼろ五勺の酒の酔いおぼろ
春宵や書を読むよりも酒酌まむ
織田作の句碑ある横丁春灯し
戯言に本音ちらほら花菜漬
種袋振れば命の音さらさら
花冷えや見送る人の振り向かず

千枚の棚田に千の青田風
箸使ひ品よきひとと鮎の宿
青嶺越え青嶺分け入る熊野道
暮れながき淀の堤や行々子
足るを知る五勺の酒と冷奴
老懶の己れ励ます梅雨入かな
ろうらん

晩年やのらりふらりの青瓢(あおふくべ)
一日暮れ一日歳とる法師蝉
長寿眉だけが自慢の敬老日
健啖の子規に供ふに柿二つ
子規虚子に親しむ小机(しょうき)夜の秋
村老いて荒れ畑捨て田秋櫻

奈良茶粥噴きこぼしてや初しぐれ
日の暮れて北山時雨ほしいまま
冬耕や己が影踏む己が影
遊ぶことすぐに纏まり冬ぬくし
群れをなすことは好まじ寒鴉
へつらわぬ猫膝に抱き冬籠り
庭師きて長講釈や冬日和
