ParisHotel  

巴里を訪れるたびに、街中の隙間なく続く高層アパルトマンに面した通りを歩きながら興味をそそられるのは、いったい中はどうなっているのだろうということだった。
通りに面している頑丈な両開きの重々しい扉は、年月を語り、それぞれに趣向が凝らされ、大抵しっかりと閉められているので、解らないもの見たさはいつにも増して好奇心を呼び、住人らしき人が入ろうとすると、ちょっと歩調を早めてチラリと中を盗み見したものです。
扉から3〜5mくらいのトンネル(?)の向こうに、ある程度のスペースが拡がり、それは中庭であって意外と広い。今回、モンパルナスの高層レストランでランチを摂ろうと、高速エレベータで上がる機会があったので、ゆっくりと寛ぎながらこれらの疑問をいっぺんに解決することができました。

自分のスペースを守るために、巴里の人達は長年かけて、うまく考えましたね。いつ起こるやもしれぬ戦争や略奪から、被害を被らないためには良い住まい方でしょう。
個人主義が徹底していて、自己主張する巴里人はに歯ぎしりすること度々だけれど、今回は、そういう場面に何度か出会いました。

メリディアンホテルは、悪くないホテルですが、フロントに何かを頼むと、それが何時、解決するか解らない。例えば、バスタオルをもう一枚持ってきて欲しいとオーダーすると、日本だったら10秒もしないうちにボーイがドアの前にたっているのですが、あちらはもう、忘れてしまったのかしらと、もう一度電話をする。まだ来ない、もう一度。全く、お客の都合は考えない。ミイペースでケロリとしている。

最初に部屋へ案内された時に、一通りドアを開けて室内を点検するのですが、あれっ!この大きなドアは何だろう?と開けてみると、何と、10センチ奥にもう一つのドアが・・。それを押してみると音もなく開いて、あらまぁ、同じ部屋が向こうにもう一つ。

そうです、よくある続き部屋なのだが、ここが開いているのは駄目なんじゃない?
この隣に誰かが入ってきて向こうからこっちへ来たら、どうするのよ!と思う間もなく、物音がする・・・。うわぁ、訳のわからない男性だったらどうしよう!困った困ったと、ドキドキしながらドアのノブを押さえている間抜けな私。

お隣さんは荷物を入れている様子らしく、そうっと廊下側のドアを開けてみたら、あっ!男が同じくドアを開けて向こうを見ているところ。薄くなっている後頭部が目の前に!キャッとばかりに声を出さず、ドアを素早く締めて、ベッドサイドの電話に飛びつき、「ウッジュゥ カム ヒア。 イッツ エマージェンシィ」と、小さな声で強く言いました。エマージェンシィは、緊急という意味じゃぁなかったかな・・と思いつつ。そして、ノブを強く持って暫く固まっていたのです。

エマージェンシィが効いたらしく、間もなく支配人らしき男と黒人のメイドがやってきて、沢山の鍵をがちゃがちゃと幾つも合わせて閉めたのでした。ヤレヤレ。みなさん、巴里では、「エマージェンシィ」ですよ。

 
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